先月の終わり、イラクの結婚式場で式の最中に火災が起こり、参列者が113人も焼死するという痛ましい事故が起こった。新郎新婦が式場の真ん中でダンスに興じている。演出としてその周りで花火が吹き上がるが、その火花が天井の装飾品に燃え移り、式場はあっという間に炎に包まれる。華やかな結婚式が一転して驚愕の惨事に変わる様を映像で見たが、喜びのセレモニーの最中のことなので、その悲惨さは際立っている。


当初、新郎新婦も火事の犠牲になったと報じられ、その余りにむごい出来事に暗澹たる気持ちになったが、続報では二人は無事らしい。それでも自分たちの結婚式で113人も参列者が亡くなったという事実は生涯、二人の結婚生活に暗い影を落とすはずで、まったく幸先がよくないスタートである。新郎新婦のお二人に心からお見舞い申し上げたい。


燃え上がる結婚式場で逃げ惑う人々の映像を見ていたら、こういう事故は、それが発生する場所がパーティー会場であるところが、その悲惨さをより際立てていると感じる。喜びと祝福に満ちた場所であるからこそ、場所と火事の恐怖がハッキリとしたコントラストを形成しているわけである。これが結婚式ではなく葬儀の場であったら、印象もずいぶん違うと思う。


そう言えば、1970年代に作られたパニック映画の中でも最高峰と呼ばれる「タワーリング・インフェルノ」(1974年)でも人々はパーティーの最中に火災に遭遇する。こちらは結婚披露宴ではなく新築の超高層ビルの完成披露パーティーだが、生演奏によるムーディーな音楽の中、人々がシャンパンを飲んで楽しんでいる最中、火災の恐怖は訪れる。「キャリー」(1976年)でもパーティーの最中、会場が業火に焼かれる場面がクライマックスである。こちらは高校の卒業記念パーティー(プロム)の最中の惨劇である。


どちらも出席者がみすぼらしい格好ではなく、着飾っている点が特徴で、着飾っている分、逃げ惑う姿がより悲惨に見える。彼らが運動着のような動きやすい格好でなく、むしろ避難にはまったく適さない装いである点に何とも言えない皮肉が見え隠れする。113人という数は相当な数である。遠い異国の出来事だが、喜びの宴で唐突に亡くなった犠牲者の人々のご冥福を祈る。


*「キャリー」の一場面。(「映画.com」より)