ジャニーズ事務所の創設者であるジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐる事務所側の謝罪会見において、記者の一人が「ジャニーズ事務所」という会社名を残すか残さないかを問う場面があり、その是非を説明する際に「それは言うなれば、"ヒトラー株式会社“と名乗るに等しいのではないか」と言った。記者さんが言わんとしたのは、「悪党」の名前を冠した会社名を名乗り続けるのは社会通念上、おかしいのではないかということであろう。


記者さんがジャニーズ事務所の会社名について、一般の人にわかりやすいように歴史上の「悪党」を思い浮かべた時にアドルフ・ヒトラーの名前を使ったのは妥当な選択だと思う。ヒトラー以外にも大悪党と言ってもよい政治家はいるが、ムッソリーニやスターリンや毛沢東よりも、ヒトラーは格が上であるように感じるからである。つまり、現代人が考える「世紀の大悪党」とは、アドルフ・ヒトラーなのである。


もしも記者さんがこの局面において、「それは言うなれば"東條株式会社“と名乗るに等しいのではないか」と言ったらどうだろう? 多くの人が「?」となるのではないか。そして、東條とは我が国の首相を務めた東條英機だとわかったら、おそらく物議を醸すにちがいない。「お前は我が国の首相を悪党と呼ぶのか!」と。「あんたは大東亜戦争において我が国は悪だったと言うのか!」と。


あるいは、「それは言うなれば"宅間株式会社“と名乗るのと等しいのではないか」と言ったらどうだろう? こちらも記者の意図を汲み取れず、ほとんどすべての人が「?」となるにちがいない。「あ、宅間というのは、大阪の附属池田小学校でたくさんの子供を殺傷した」と付け加えればわかるが、よい例えではあるまい。


それにしても「ヒトラー株式会社」とはよく言ったもので、いかにも大仰な言い回しである。記者さんの気持ちもわからないではないが、ヒトラーとジャニー喜多川氏の罪の種類は質も規模もまったく違う。それでも芸能事務所の創設者による性加害問題の謝罪会見において耳にした「ヒトラー株式会社」という言葉は、わたしの想像力を強く刺激する奇妙な言葉であった。アドルフ・ヒトラーが社長の会社は、どんな会社だろう?


*アドルフ・ヒトラー。(「soul brighten.com」より)