昨日、無事に初日を迎えた「ブルースリーと同じ日」では、劇中劇としてある芝居の一部が演じられる。それは、堤泰之さんが書いた戯曲「見果てぬ夢」である。なぜ本作にこの芝居の一部が劇中劇として取り入れられているかと言うと、実話に基づいているからである。


本作が題材としている中野劇団員殺人事件は、2015年に中野区内のマンションの一室で若い女性が殺害された事件だが、被害者の女性は舞台女優の卵だった。彼女は間もなく始まる公演の稽古中に理不尽な死に直面したわけだが、彼女が出演するはずだった舞台の演目が「見果てぬ夢」だったのである。


「見果てぬ夢」は、病院の裏庭を舞台に入院患者と医療関係者の交流を描く群像コメディで、声優として著名な鈴置洋孝さん主演の舞台だった。わたしは2000年にシアターサンモールで上演されたその舞台を見ているが、その鈴置さんも鬼籍に入って久しい。また、鈴置さん扮する入院患者の妻を演じていた鶴ひろみさんも急逝されてしばらく経つし、その舞台に出演していた内海賢二さんや麻生美代子さんもすでに泉下の客である。


この事件は、舞台女優の卵だった若い女性が唐突に命を奪われた事件として知られるが、被害女性が出演するはずだった舞台がどんなものだったのかを知る人は少ない。わたしはネットの記事を通して、その事実を知った時、この事件が非常に身近に感じられた。それは、その舞台の作者である堤さんと親しくしてもらった時期があったからである。


わたしは、所有していた「見果てぬ夢」(論創社)の戯曲を読み直し、被害女性が演じる予定だった役は何だろうと想像した。そして、それはおそらく病院の看護師の役だろうと推測した。亡くなった彼女の視点で戯曲を読むと、至るところに彼女の死と重なるような台詞がたくさんあることに気づいた。それは、病に冒され死と隣り合わせの入退患者たちと実際の死に直面した彼女の人生がどこかで交錯するように思えたからだった。


そして、もしも被害女性が取り組んでいた芝居がわたしが書いた戯曲だったら、この事件はもっと身近になったにちがいない。例えば、彼女が拙作「八月のシャハラザード」の夕凪役(あの世への案内人)を演じる予定だったりしたら、彼女の死はさらに戯曲の内容と重なるように思う。公演は7月24日まで。お勧めは本日と明日のマチネ、ソワレです。


*「見果てぬ夢」の戯曲。(「Amazon.co.jp」より)

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Sun-mallstudio produce

『Crime5~あゝ無情編~』
2023年7月19日(水)~7月24日(月)
@サンモールスタジオ

■ISAWO BOOKSTORE公演

「ブルースリーと同じ日」

作・演出/高橋いさを


【チケット取扱い】

○カルテットオンライン

■ISAWO BOOKSTORE扱い

[高橋いさを扱い 予約フォーム]

https://www.quartet-online.net/ticket/crime-file012?m=0xcjhjh