世の中には様々な業界があり、その業界ごとに様々なスラング(俗語)が存在する。わたしは警察用語に関しては調べたことがあり、少しだけ詳しいが、それ以外の業界にも興味深いスラングは存在する。"金融業界”の専門用語だと思うが、株などの投資の失敗で資産を失ってしまうことを何と言うかご存知だろうか? 「溶かす」というのである。


わたしがこのような言い方で資産を失くすことを言い表すことを知ったのは最近だが、以前からこういう言い方は一般的だったのだろうか? わたしが単に注意不足だっただけかもしれないが、「ウォール街」にも「金融腐食列島・呪縛」にもそんな言い方は登場しなかったと思う。銀行員を主人公にした人気テレビドラマ「半沢直樹」の中でたくさん使われた言葉なのかもしれないが、あいにくわたしはそのドラマを一度も見ていない。


なぜお金や資産を失うことを「溶かす」と言うのか? きちんと調べたわけではないのだが、おそらく雪や氷が跡形も消えてしまう現象になぞらえてこういう言い方をするのだと思う。溶かしたものは、探せば出てくるものではなく、まったく消滅するわけである。そういう意味では、お金を「失くす」より「溶かす」という言い方で表現した方が後戻りできないニュアンスがあり、失敗した時の喪失感や恐怖感は大きいと思う。


そして、改めて「現場の言葉」というものは物凄くリアリティがあるよなあと思う。例えば、わたしの身近な演劇の世界でよく使われる言葉に「バラす」という言い方がある。これは演劇公演が終了した後、立て込んだ舞台装置を壊したり、照明機材を取り外したりして、様々なものを「撤収する」ことを意味する言葉である。これなども、これ以外ないというリアルな言い方であり、「溶かす」同様に現場が生んだ説得力がある言葉である。とは言え、今までにわたしは「バラす」という言葉は何度も使ったことがあるが、「溶かす」は一度も使ったことはないのだが。


*溶ける雪。(「123RF」より)