DVDで「オール・ザット・ジャズ」(1979年)を再見する。舞台の振付・演出家、映画監督だったボブ・フォッシーの自伝的な要素が強いミュージカル映画。


ブロードウェイの舞台演出家のジョー・ギデオンは、白いベールをまとった死の天使に対して自分の人生を回想して語る。新作ミュージカルの振付と監督した映画の編集に忙しく追われる日々。別居中の妻や娘、現在の恋人への愛情とすれ違いの数々。そして、ついにジョーは自らの死に直面することに。彼の人生はまるで一編のミュージカル・ショーのよう。


本作が話題になったのは、わたしが大学生の頃だった。大学のミュージカル研究会の人々がこぞってこの映画のことを話題にしていた記憶がある。あれから四十年余り。当時、一介の大学生だったわたしも、自らを「舞台演出家」と名乗るようになった。そんな同業者の目で本作を見ると感慨も深い。まあ、一言で言えば、「こんな格好いい舞台演出家はいないよなあ」というのが率直な感想である。主人公のジョーの一日は、酒、タバコ、薬、女に彩られているが、そんな小道具を使いながらショービジネスの世界に生きる才能あるモテ男の格好よさに溢れている。わたしとはまったく雲泥の差である。ジョーを演じるのはロイ・シャイダーだが、くわえタバコがこんなに“決まる”役者もなかなかいないのではないか。ふと、親交があった演出家の故・福田陽一郎さんの姿が主人公に重なる。


そんな僻(ひが)みを差し引いて言えば、本作の語り口は、相当に独創的である。死の間際にいる主人公が、自らの人生を「死の天使」に語るという語り口が。「死の天使」が黒い衣装を身に付けた容貌怪奇な人物ではなく、美しい女性(ジェシカ・ラング)であるという点もヒネリがある。そんな女を一種の神父に見立てて、本作は主人公の人生の懺悔(ざんげ)を描いているようにも見える。それが「ミュージカル仕立て」というのも、「天才振付師」と呼ばれたボブ・フォッシーらしい趣向である。


死の天使「愛を信じる?」

ジョー「まず『愛してる』と言ってみることだ。そうすればその気になる」


二人はそんなやり取りを劇中でするが、若い頃、まだ愛の何たるかもわからないわたしは、ジョーの答え方に深くうなずいたりしていたのだった。本作の撮影時、ボブ・フォッシーはすでに自らの余命が少ないことを知っていたという。そんなことを知って本作を見返すと、感慨もまた新たになる。ボブ・フォッシーは、本作の後、遺作になる「スター80」(1983年)を撮り、他界する。60歳だった。


*同作の一場面。(「映画.com」より)