Amazon primeで「毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」(2006年)を見る。ユニークな写真家として知られるダイアン・アーバスを主人公にした自伝的な映画。(しかし、「自伝ではない」とオープニングに断りが入る)

1950年代。ダイアンはカメラマンの夫とニューヨークで幸せな日々を過ごしていた。ある日、彼女が住む自宅アパートの階上に奇妙な男が引っ越してくる。ライオネルという名のその男は多毛症で、その姿はまるで狼男のよう。彼に興味を抱いたダイアンはカメラを片手に彼の部屋を訪ねる。そして、今まで押し隠していた彼女の”異形の者“への関心が目覚めていく。

ダイアンを演じるのはニコール・キッドマンである。自伝的と謳いながらも、相当に不思議な映画で、ある種のファンタジー映画の趣き。”異形の者“に惹き付けられるダイアンの心の葛藤やと平凡な夫との対比などがきっちりと描ければ面白いと思うのだが、ドラマは全般に平板に感じる。全裸で過ごす人々のグループへダイアンが入っていく最終場面もわたしには理解不能であった。現実のダイアン・アーバスは自宅の浴室で手首を切り、自殺した。その原因をわたしが知るよしもないが、彼女が自死に向かうその過程を説得力ある形で描いてくれたら、わたしはもっとこの映画を評価できたかもしれない。

ところで、ダイアン・アーバスの存在は昔から知っていた。高価なので写真集を買うことはできなかったが、彼女の作品のいくつかを目にしたことがある。かく言うわたしの中にも”異形の者“への関心はあり、興味深い写真家の一人だった。調べてみてわかったことだが、この人はかつて「ヴォーグ」や「ルック」など有名な写真誌のカメラマンをしていたそうで、その時、後輩だったのが後に映画監督になるスタンリー・キューブリックだったという。それで得心した。キューブリックの監督作「シャイニング」(1980年)に不気味な双子の姉妹が登場するのは、カメラマンとして先輩だったダイアンへのオマージュなのだ。言うまでもなく、ダイアンの作品一枚に双子の姉妹の写真があるからである。

*同作。(「Amazon.co.jp」より)