毎日、どうでもいい話を書き連ねていると思うけれど、本日の記事は特にマニアックなもので、わかる人にしかわからない内容であることをあらかじめお断りしておく。

拙作「バンク・バン・レッスン」は銀行を舞台に銀行強盗に関する防犯訓練がエスカレートしてしまう様を描くコメディたが、劇の終盤、“銀行強盗ごっこ”の中で支店長は人々に意外な告白をする。自分の部下である女子銀行員の柳田が強盗の手引きをしたことが判明した後、支店長は柳田を叱責し、実は生き別れた自分の娘だと言い放つのである。そして、自分はとある殺人事件の罪で逮捕され、網走刑務所で12年間、服役したと告白する。支店長の起こした事件を検察官の起訴状風に記すと以下のようなものになる。

「公訴事実。被告人は昭和○年○月○日、午後9時頃、東京都新宿区新宿三丁目の居酒屋〈池林房〉で飲酒した後、近くの路上において、通りがかりの暴力団構成員・Tさん(当年35歳)と肩が触れたことがきっかけに口論となり、殴り合いの末、Tさんの頭部を素手で執拗に殴打し、脳挫傷により死亡させたものである。罪名及び罰状・傷害致死。刑法205条」

つまり、支店長が服役することになった原因の犯罪は、「殺人罪」ではなく「傷害致死罪」だったということである。上記のような事件だった場合、裁判官が下した懲役12年はちょっと重い気もしないでもない。喧嘩を売ってきたのは相手だったとしたら、死亡した被害者の暴力団構成員 Tにも落ち度はあったと思うからである。しかし、支店長は元ボクサーだった過去があり、にもかかわらず被害者の頭部を執拗に殴打したとしたら、裁判官たちの心証は悪かったにちがいない。だから、そう考えると本件の判決が懲役12年であったのは妥当かもしれない。

わたしが本作を書いた頃、つまり、わたしが二十代の頃、刑事訴訟法の知識はほとんど皆無であった。だからどんな方法であっても他人を殺すと「殺人罪」になるとわたしは思っていたのである。しかし、上記のように支店長の犯罪は法律的には「殺人罪」ではなく「傷害致死罪」である。にもかかわらず支店長の起こした犯罪の量刑がそんなに的外れではなかったことに今のわたしはちょっと安心する。もちろん、支店長の告白は口から出任せのまったくの虚偽ではあるのだが。

*同作。(「Amazon·co·jp」より)