ISAWO BOOKSTORE公演「獄窓の雪」の稽古が始まった。本作は戦後間もない東京で起こった「帝銀事件」を題材にした芝居である。「帝銀事件」と言っても若いアナタはまるでピンと来ないかもしれない。今から72年も前の事件だから当然だが、名前くらいは聞いたことがあるのではないか。しかし、その凶悪さは、最近の例で言えば「秋葉原通り魔事件」や「座間9遺体事件」に匹敵すると思う。被害者の数が多いからである。犯人は銀行の金を奪うために12人の人々を毒殺した。

初対面の人も何人かいるが、多くは顔見知りの役者さんである。事件の犯人とされた「平沢貞通(ひらさわさだみち)」を演じてもらうのは加藤忠可(かとうただよし)さんである。そのように「さん」づけで書いてちょっとした違和感を持つ。彼はわたしの大学時代の同級生であり、解散した劇団ショーマの創立メンバーの一人だからである。わたしが彼を「加藤さん」と呼ぶことに違和感を持つように、彼もわたしのことを「高橋さん」と呼びにくいはずである。わたしが彼と同じ稽古場でガッツリ芝居作りに取り組むのは、実に30年ぶりである。

※稽古場にて。左が加藤氏。右がわたし。真ん中はモリタモリオさん。

これは出演者の板垣雄亮さんが撮ってくれた稽古場写真の一枚だが、この写真をまじまじと見て、わたしにとってこれは非常に貴重な一枚であると感じた。なぜなら、わたしと彼は30年の時を経て、今ここでこうして向かい合っているからである。それを客観的に見るといろいろな感情が沸いてくるのである。

それにしても青春時代を共有した旧友と再会し、演じてもらうのが「天下分け目の戦いに挑む織田信長」でも「幕末の革命児・坂本竜馬」でもなく、「帝銀事件の犯人・平沢貞通」であるという点がわたしらしいとも言えるが、何とも複雑な気持ちである。
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ISAWO BOOKSTORE vol.5
サンモールスタジオ提携公演
「獄窓の雪―帝銀事件―」
作・演出/高橋いさを
2020年12月15日 (火) ~ 20日(日)
@サンモールスタジオ

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