マイナーな映画だと思うが、「スペイン一家監禁事件」(2010年)という映画がある。スペインのとある一家に三人組の強盗が押し入り、家族を人質にして金を奪おうとするという内容のサスペンス映画である。先日、紹介した「必死の逃亡者」もそのような話だから、こういう“侵入もの”は世にたくさんあるということだと思う。しかし、本作と「必死の逃亡者」は明らかに違う精神で作られている。独断で結末を明かしてしまうが、本作の結末は一家皆殺しというものである。だから、普通の映画に見慣れた観客は「え!?」と驚いてしまうにちがいない。

本作とちょっと似た趣向の映画に「ファニーゲーム」(1997年)がある。ミヒャエル・ハネケ監督による同系列の“侵入もの”である。こちらの舞台はオーストリアだが、主筋は同じである。ただ、こちらの侵入者は必ずしも金品目当てではなく、監禁をゲームのように楽しむ人間として描かれる。これまたネタバレだが、こちらも「スペイン一家監禁事件」と同じように結末は一家皆殺しである。だから、観客は最後に空中に放り出されたような居心地の悪さを感じる。もちろん、作り手たちは確信犯であり、パターン(定型)崩しを企図してこれらの映画を作ったにちがいないが、放り出された観客の気持ちは行き場を失う。

「スペイン一家監禁事件」の後味は限りなく悪い。なぜそうなるかと言うと、観客がそうあってほしいと望む結末がそこにないからである。誰が「侵入者に家族全員が惨殺される話」を見たいと思うものか。この映画の結末に快哉を叫ぶ人間がいるとしたら、それは家族も友だちもいない孤独なサイコパスだけであろう。しかし、それでもなおわたしは本作を評価したい。リアリズムの優位を唱えたいがゆえにそう言うのではない。たまに珍味を味わうと味覚が刺激されて、自分の食べたい食べ物が何なのかよくわかるからである。

※同作。(「Amazon.co.jp」より)