わたしの知り合いの韓国人の演出家は、自国の韓国において、政府機関のブラックリストに載っていたとご本人から聞いた。「政府機関のブラックリスト」とは穏やかではないが、かつて韓国では朴槿恵(パク・クネ)政権下で、反体制的な志向を持つ芸術家は公的な助成金をもらえないという現実があったらしい。(今、話題のポン・ジュノ監督もそんな一人であったと聞く)

時の政府が映画や演劇を作る人々の表現活動に制限を加えるとはずいぶんと時代がかった印象もあるが、これは、政府が実力行使による弾圧を行っているわけではなく、一種の経済制裁を行っているということである。それはそれで大変であろうが、政府からの助成金などもらったことがないわたしには、ちょっとピンと来ない話である。わたしは自腹を切って公演活動をすることが多いからである。

日本の場合はどうか?   わたしが知る限り、政府機関が反体制的な表現者をチェックしてブラックリストを作っているという噂は耳にしたことはない。しかし、文部科学省が統括している舞台芸術への公的な助成金を受け取る団体が、どのような基準で選ばれているかわたしはまったく知らない。想像では、やはり実績がない団体には簡単に助成金が下りないはずである。どんな形にせよ、複数回の公演活動を続け、ある一定の芸術的な評価がない限り、国は簡単にお金を出さないと思う。また、余りに反体制的な内容の芝居には、公的な助成金は使いにくい。

韓国政府による表現者のブラックリスト作成は、朴槿恵政権の悪政の一つであり、女史が退陣した現在は、何らかの改善が行われ、少しは表現者たちに豊かな表現活動をする環境ができているのだろうか?   まあ、日本にブラックリストはないにせよ、韓国に比べてすばらしい表現の環境があるとはとても思えないが、どちらにせよ、そんなものはない方がよいのは言うまでもない。

※黒い手帳。(「White BG」より)