劇映画を宣伝する際、予告編やチラシに、その映画の監督の名前の脇に過去の作品名が添えられている場合が多い。例えば、公開中の「パラサイト 半地下の家族」のチラシには次のような表記がある。

監督/ポン・ジュノ(「殺人の追憶」「グエムル 漢江の怪物」)

これは、その人が過去に作ったヒット作をさりげなく書き添えて、観客を引き込もうとする映画の宣伝マンの作戦なのだと思う。だから言外に「あれは面白かったでしょ? だから今回も面白いんですよ、きっと」ということを言いたいにちがいない。では、なぜ次のように表記されないか?

監督/ポン・ジュノ(「母なる証明」「スノーピーアサー」)

このように書かれていても全然、違和感はないが、「パラサイト 半地下の家族」を宣伝する人のバランス感覚の中で上記の二作が選ばれたにちがいない。場合によっては、監督自身が選ぶ代表作と宣伝マンが選ぶ代表作は食い違うかもしれないが、宣伝マンは芸術性ではなく、その映画がどのくらいヒットしたかを基準に作品選びをしているはずだから、監督がガタガタ言ったとしても、「あなたの代表作はこれなんです!」と押し切るように思う。

翻って、演劇公開の宣伝の際に、チラシにその演出家や俳優の代表作を書き添えることは滅多にない。これはなぜか? 勝手な想像では、演劇は映画と違って再見できないものだから、過去にどんな作品を作っていようが関係ないということかもしれない。そういう点が演劇の潔い点である。演劇は常に「今、何を作っているか?」を問われる世界なのである。(「Vivace」2020年1月号より)

※同作のポン・ジュノ監督。(「映画.com」より)

この文章を書いた時にはまだ「パラサイト 半地下の家族」を見ていなかったが、先日、映画館で「パラサイト 半地下の家族」を見た。作品も面白かったし、客席はいっぱいだった。間違いなく今後、ポン・ジュノ監督の紹介の際には本作のタイトルが添えられるにちがいない。