先日、駅のホームで歩きスマホをしている女性に「体当たり」をして全治三週間の怪我を負わせたとして、49歳の会社員が傷害の罪で逮捕されたという記事を読んだ。男は「3日に1回は体当たりした」と供述しているという。男は過去に歩きスマホをしている人とぶつかり、そんな経験をきっかけに報復的に犯行に至ったらしい。まったく世の中にはクレイジーなヤツがいるものである。

百歩譲って、男の気持ちも理解できないわけではない。スマホを操作しながら前を見ずに自分の方に前進してくる人は時々いるからである。そういう時、わたしも注意を促すためにわざとぶつかってやろうと一瞬考えることはあるが、実行はしない。ましてや自らの力を駆使して相手に「体当たり」は絶対にしない。その結果、相手が倒れて怪我をするかもしれないことは容易に想像できるからである。そんな当たり前のことを想像せずに「体当たり」をくり返した男は馬鹿者としか言い様がない。しかも、それを「3日に1回」という風に認識している点がほとんど狂っていると思う。「お前は"必殺体当たり人"か!」と突っ込みたくなる。注意したいなら口で言えばいいではないか。

しかし、わたしは必ずしも逮捕された男をこの場を借りて非難したいだけではない。不謹慎な言い方をすれば、面白いと思ったのである。理不尽な暴力に遭遇した被害者の怒りは想像できるが、こういう人間が、しかも50に手がかかる中年男が世の中には存在するということがわたしにはちょっと驚きだったのである。体当たり男は主観的には自らの行動を「危険な歩きスマホをする女性に注意を促す」という風に正当しているが、体当たりしたのはみな女性である。相手が強面(こわもて)の大男ならそんなことはしなかったにちがいない。歪んだ正義感はこういう卑劣な犯罪を生む。

※歩きスマホ禁止マーク。(「SignWeb」より)