政治活動と演劇活動はちょっと似ているところがある。政治活動とは、現在の政治状況に異を唱えて言論や行動を通して社会改革を目指すことである。一方、演劇活動とは、現在の演劇状況に一石を投じるべく言葉と行動を通して新しい演劇を生み出すことである。両者の共通点は、志がないとできないこと、金銭的な報酬が少ないこと、両親が携わることを毛嫌いすることだろうか。

演劇の歴史を振り返れば、政治活動と演劇活動は密接な関係を保ち続けてきたことがよくわかかる。労働者たちが自らの社会的地位の向上を演劇を通して訴えた時代もあったし、1960年代後半に盛んだったアンダー・グラウンド小劇場演劇は社会変革の思想と深く結びついていた。それは、上記のように政治活動と演劇活動はよく似た点があるからにちがいない。

バーブラ・ストライサンドとロバート・レッドフォード主演の映画「追憶」(1973年)は、政治の季節に出会った男女の恋愛物語である。女は政治活動にのめり込み、文学志向が強い男はそんな女からいつしか離れていく。二人はそれぞれに理想を持っているが、それを実現する手段がそれぞれに違う。女は直接的に社会変革を目指し、男は文学的な表現を通して間接的に人間の心の変革を夢見る。ゆえに二人の愛はすれ違い、決別を余儀なくされるのである。わたしが男の気持ちがわかるように思うのは、わたしが演劇人間であり、政治人間ではないからだと思う。「豊かな社会を実現する」という目的は一緒でも、それぞれの手段が違うと、人間はともに生きていくことができないのだ。結論。政治活動と演劇活動は似て非なるものである。

同作。(「映画.com」より)