しばしば、翌日の投稿のために書いたブログの記事が消えてしまうことがある。そういう時、わたしは小さな驚きと怒りを覚えて、人がいない場所なら小さく「マジかよ」と口にする。続いて何とも悔しい感情=喪失感が胸に広がる。短い文字数のブログならまだいい。これが長編戯曲を書いた後のことなら、その喪失感は計り知れない大きなものになるにちがいない。

そういう場合、どうするかと言うと、また同じテーマで文章を書き直すのである。しかし、不思議なもので、内容は同じでも文章の細かい点は違うものになる。同じ文章は二度と書けないのである。これが何を意味しているかと言うと、文章もまた即興性に支配されているということである。しゃべり言葉は常に一回こっきりだが、文章も同じような性質を持っている。その日、その瞬間にしか成り立たないもの。アクシデントで書いた文章を消失させてしまう事態に遭遇して、初めてわたしはそのことに気付いた。

演技の授業で、しばしば即興の演技をやってもらう。台本がないままに、設定だけを決め、その場で演技してもらうのである。そういうレッスンをしてわかるのは、台本がないままに行う演技は、概してとても面白いということである。それはその場で繰り出される言葉やリアクションが二度と反復できない性質ゆえである。一回こっきりゆえに新鮮味に溢れているのだ。こういう性質を「一回性」と言う。

ブログに掲載すべく書いた文章を消失させ呆然とする経験を経て、わたしは書き言葉も実はその日、その瞬間のわたしの生理的な衝動で書かれていることに気付いた。すなわち、しゃべり言葉だけではなく、文章も一回性に支配されているのである。これは一つの発見であった。

※文章が消えた!

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
★上演許可についてのお知らせ

高橋いさを作品の上演をご希望の方は、以下のアドレスにメールでご連絡いただき、しかるべき手続きをしてくださいませ。詳しくは「ブログ情報」をご覧ください。

【お申込み先】
〒167-0043
東京都杉並区上荻2-4-12 オメガ東京2階
有限会社ファイナルバロック 
TEL:0369139072
FAX:0369139073
baroque@art.nifty.jp