ガルボ=イタリア語で『礼儀正しさ』『優しさ』。
2007年5月5日、子どもの日に北海道様似町・高村牧場で生まれた青毛の牡馬。
父マンハッタンカフェ、母ヤマトダマシイ。母は地方で走り63戦6勝、母の伯父に重賞3勝(京都新聞杯でナリタブライアンに勝つ)のスターマンがいるとはいえ、期待大きい血統とはいえなかった。
額から鼻にかけて流星が入り、全身真っ黒な青毛。その艶やかな毛色は黒い中にも紫の輝きを持ち、青毛といわれる所以だ。
凛々しさを見せながらも、おとなしい所作。愛らしさを感じさせるつぶらな瞳から、名をガルボとされた。
2009年、7月26日。2歳新馬戦デビュー。勝ったスペースアークから1.1秒離された9着だった。
敗れた中でも何かをつかんでくる馬。
2戦目7着、3戦目2着、そして、4戦目となる未勝利戦で好位から差して1着。
競走馬として、何よりも代え難い『1勝』を上げた。
未勝利勝ち即臨んだ朝日杯フューチュリティS。12番人気も、中団から粘り強い末脚を見せローズキングダムの0.6秒差4着。
母さん、僕、この世界でがんばれるかもしれない・・・・・・ガルボは、遠い空の下、母に活躍を誓った。
2010年、1月10日。3歳となった初戦は重賞・シンザン記念だった。
ピサノユリシーズ、キョウエイアシュラ、メイショウカンパク、後方に位置する人気馬を尻目に逃げる9番人気シャイン。
3番手で追いかけたのは4番人気ガルボだった。
直線、伸びてこない人気馬たち。ガルボは一気にシャインをとらえ、3馬身の差をつけてゴールへ飛び込んだ。
クラシック登竜門ともいわれるシンザン記念を圧勝。
管理する美浦・清水英克厩舎にとっても、馬主・石川一義氏にとっても初の重賞制覇。
期待が膨らまないわけがない。
4月18日、皐月賞出走。ヴィクトワールピサの13着。
5月9日、NHKマイルカップ。短距離路線に切り替えマイルG1へ。ダノンシャンティの15着。
打ちのめされた。
7月・ラジオNIKKEI賞8着、10月・富士S13番人気3着、11月・マイルチャンピオンシップ15着、12月・阪神カップ4着。
G1では歯が立たないが重賞では・・・・・・思いを胸に古馬となるガルボ。
2011年、1月・京都金杯2着、2月・阪急杯2着、存在感を見せるも4月・マイラーズカップ12着、5月京王杯スプリングカップ12着、8月・キーンランドカップ11着。
朝日杯以来走り続けてきた重賞を外れ、11月、オープン特別のパラダイスS7着、キャピタルS2着。4歳最後の重賞・阪神カップは6着だった。
シンザン記念を勝って大きく膨らんだ『夢』は何だったのか?
いつも懸命。懸命に、懸命に走ってきたことにウソはない。
それでも、まだまだ足りないというのか!
考えまい。
ひたすら走るだけ。
いまある力を、最大限に発揮するッ。憂いを消し去るガルボだった。
2012年。5歳初戦は1月・オープン特別のニューイヤーS2着。
2月5日、東京新聞杯に臨んだ。
1番人気ダノンシャーク、2番人気フレールジャック、3番人気サダムパテック、マイルG1・安田記念を狙う若き4歳馬。
8番人気ガルボは逃げるコスモセンサーの3番手につけた。
中団につけるフレールジャック、サダムパテック、後方から行くダノンシャーク。
騎手たちのマークは後ろの人気馬。
これだ!この展開こそ生きる道。
内3番手で、じっと脚を溜めたガルボ。
直線、誰もコスモセンサーに襲いかかれない。
絶妙の逃げから繰り出す34秒2の上がり脚。
3番手につけて33秒6の切れ味を使ったガルボ。
クビ差、唯一、コスモセンサーをとらえ切った!
2年ぶりの勝利。
3週後の阪急杯5着のあと4月・ダービー卿チャレンジトロフィー1着、重賞3勝目。
自信を持って臨んだ6月・安田記念。健闘空しく、ストロングリターンから0.5秒差の5着。
思えばこの時が・・・・・・ガルボのG1挑戦、『夢』に近づいた一戦だった。
その後、6,16,2,8,11,5,3,7,7,14,2,3,4,11着で7歳夏を迎えた。
まったく歯が立たずに終わったG1も、阪神カップ14番人気2着、10番人気2着、京王杯スプリングカップ6番人気3着、京都金杯5番人気3着と重賞では爪痕を残した。
2歳時から毎年冬場に好走が見られ、追いかけ続けるガルボ・ファンからは『冬将軍』ともいわれた。
2014年、6月22日、函館スプリントS。
ファンが待ち続ける冬まではまだ遠い。
7歳夏を迎えるガルボにとって、例年以上に日差しは厳しいか?
単勝35.9倍、8番人気ガルボ。脚力の衰えは、誰よりも一番感じていた。
それでもガルボなら、いや、もう無事に走り切って、それでいい・・・・・・交錯するファンの熱いまなざしもガルボは感じていた。
1400m・1600mを走り続けて来たガルボ。1200m、スプリント戦はまだ2戦目。
ダッシュがつかない。14頭立て、9番手を追走するのがやっとだった。
それでも、4コーナーでは6番手まで上がって来た。
33秒8のペースで逃げた2番人気フォーエバーマーク。
単勝1.5倍、断然人気のストレイトガールが早めに3番手に上がる。
人気馬が作り出した速い流れ。
直線、脚が上がった先行集団。
あれよ、あれよという間に先頭に立ったのはガルボだ!
後方一気に追い上げてくるローブティサージュ、クリスマス!
ここまで来たら、負けてたまるか!
繰り出す脚に力はなくとも、止めるわけにはいかないッ!
これが全身全霊というのか・・・・・・体を動かしたガルボ。
クビ、アタマ差。3頭がゴールへ飛び込んだ!
1着、ガルボ。
2着ローブティサージュ、3着クリスマス。
夏に勝ったガルボ。
10月5日、スプリンターズS、スノードラゴンの16着。
生まれて初めての1年以上の休養、8歳ガルボ、キャピタルSを18頭立て18着。
引退となった。
42戦5勝、2着7回、3着3回。重賞4勝。乗馬となる予定だったガルボ。
『これだけの喜びをくれた馬、できることなら血を残させてやりたい』、馬主である石川一義氏を中心に関係者が奔走し、種牡馬としてアロースタッドが受け入れを決めた。
冬になると、アロースタッドにはガルボに会いに来るファンが多いと聞く。G1の勲章はなくとも、ファンからの『愛しさ』の勲章は尊い、か。
2017年産5頭、2018年産7頭、2019年産6頭、登録数はわずかだけれど、ガルボの『血』は間違いなく息づいている。
コッヘル、2歳新馬戦8着、未勝利戦9着。
モノポーラ、2歳新馬戦5着。
すでに競走馬として生き抜く戦いは始まっている。
走れ、我が仔よ。
力の限り。
自分の道を、切り拓いてくれ!
そして、
父を超えろ!
それが、父としての思い。