(JR大阪駅北側。古くからある場外馬券場近くの喫茶店、『我楽多ほーる』。土・日ともなれば競馬好きの溜まり場となる。競馬を通じて知り合った『我楽多ほーる』の住人。金儲けには無頓着なマスター・ドイ67歳。妄想おじさんゲン67歳。自称イラストレーター・サイトウサン33歳。自称大学生カンダ21歳。自称ニートのお嬢さんアヤノ24歳。自称歌手志望コノハ。6人が織りなす日常)
アルゼンチン共和国杯、3連単ボックス①②⑤⑥⑦⑨。
⑦ムイトオブリガードが3番手から抜け出し、後方にいた②タイセイトレイルが内から強襲2番手に上がった!
迫るのは①アフリカンゴールド、さらに外から⑤ルックトゥワイス!
もう、何が来てもみんなの馬券は的中確実。大いに沸いた6人。
なかでも、祖母が同じシンコウラブリイつながりのムイトオブリガードとタイセイトレイルを選んだコノハとアヤノはゴール前、絶叫応援。アヤノにいたってはレース後、軽い酸欠状態。
「いやいや、とにかくよかった、よかった。配当はそんなでもないけど、この喜びがみんなの妄想の成果や。マスター!まだ昼間やから、とりあえずコーヒーでカンパーイ!や」
コーヒーのおねだりをする妄想おじさんゲンだった。
アルゼンチン共和国杯、3連単⑦-②-①、23,070円ゲット。
その後もアルゼンチン共和国杯の馬券をゲットした余韻に浸りながら、老人ホームで行なう『生前祭』の準備に熱中した面々。
「あ、そうだ、コノハちゃん。おじいさん、おばあさんに歌のプレゼントしたら?昭和のフォークとか歌ってあげたら、きっと喜ぶよ」
サイトウサンの提案に、
「うん、それいい!若いころ思い出して・・・・・・僕やったら泣けてくるかも」
すぐさま相槌を打つ学生カンダ。
「オレの時代でよかったら、さだまさしのアルバムの『アンソロジー』とかレコードあるで。レコードプレイヤーもまだある・・・・・・多分、動く。裏から持って来よか」
言うなり気の早い妄想ゲンは裏のアパートへ向かった。
「う~ん。私らの前なら坂本九かな。みんなも知ってるやろ『上を向いて歩こう』とか『明日があるさ』とか、コノハちゃんに向いてる」
マスターも考えを巡らせた。もはや、コノハの有り無しは無視なのか?
「お、昔の歌の特集、YouTubeにあるある。コノハちゃん、行けるよ~」
ノリノリのカンダだ。
もはや断ることもままならぬコノハは歌うしかなくなった。
火曜日の『生前祭』に向けて再び大わらわとなった6人。
深夜までそれぞれにあれこれ。
アヤノとコノハは『我楽多ほーる』の裏にある、マスターが大家のアパートの空き室に今日も今日とて泊まることとなった。
ますます『我楽多ほーる』の住人となりつつあるアヤノとコノハ。
気持ちいい疲れに包まれてぐっすり眠る二人に夢の時間はゆっくり過ぎて行った。
(つづく)