(JR大阪駅北側。古くからある場外馬券場近くの喫茶店、『我楽多ほーる』。土・日ともなれば競馬好きの溜まり場となる。なかでも平日からべったり屯するコアな人々は、まさに住人。この物語は、そんな妖しい人たちの馬券泣き笑いだ)
『我楽多ほーる』は深夜になっても大わらわ。
老人ホームの『生前祭』の準備に、競馬の予想に、妄想おじさんはブログの『倍倍方式』が正念場。
「今週はアルゼンチン共和国杯やな。妄想中の妄想、ポポカテペトルや。ディープインパクト産駒で菊花賞3着馬。5歳、まだまだ老け込む年齢(とし)やない。)妄想は華麗な復活や」
とは妄想ゲン。
「うちはムイトオブリガード。京都の成績は3.1.0.1、無茶苦茶ええやん」
コノハが言った。
「そのムイトちゃんとおばあさんが一緒のタイセイトレイル。シンコウラブリイって愛らしい名まえがいいやん」
アヤノが決めた。
「オレはノーブルマーズだな。ずっと重賞で善戦してきた馬。もう、初重賞制覇させたいね」
サイトウサンはベテランの域に入った6歳を応援。
「僕はそしたら、伸びゆく4歳、アフリカンゴールド。セン馬なんだね、この馬」
学生カンダだ。
「そしたらルックトゥワイスかな。重賞2勝目ゲットだ」
マスターが締めた。
アルゼンチン共和国杯、3連単ボックス①②⑤⑥⑦⑨。
一人、『倍倍方式』の買い目予想にとりかかる妄想ゲン。
「面白そうやね。僕もなんか手伝おうか?」
「いやいや、ええよ。そんなことより・・・・・・『生前祭』の準備。いや、女の子らはもう返した方がええんとちゃうか」
「わたしら、きょうはここに泊まるから。ゲンさんは心配せんでいいよぉー」
何かと慌ただしく『我楽多ほーる』の明かりは消えることはなかった。
(つづく)