(JR大阪駅北側。古くからある場外馬券場近くの喫茶店、『我楽多ほーる』。土・日ともなれば競馬好きの溜まり場となる。なかでも平日からべったり屯するコアな人々は、まさに住人。この物語は、そんな妖しい人たちの馬券泣き笑いだ)
東京11R、サウジアラビアロイヤルカップ。3連単ボックス、②③⑥⑦⑧⑨。
1人1頭ずつ選んでみんなで買った共同馬券。
逃げるアブソルティスモを追っかけて、直線外から交わすサリオス。
そのサリオスをマークしていたか?外からクラヴァシュドール。
2頭の叩き合いに変わり、3着を死守したアブソルティスモ。
1着は最後突き放した1番人気サリオス。
結果は1,2,3番人気で3連単③⑥⑧は・・・・・・1080円。獲って、大幅マイナスだ。
「あ~あ、残念。1着から6着まで全部、買うてんのにね。6連単ってあったらバッチリやったのに」
アヤノの嘆き。固く収まってしまっては仕方ない、か。
「さあ、さぁ、日曜はどないする?毎日王冠10頭立て、京都大賞典17頭立て。やっぱり京都大賞典か?」
妄想おじさんの思いはみんなわかっていた。
「頭数多い方が紛れもあるかもね」、サイトウサン。
誰も異議はなかった。
「ゲンさんの妄想は?」
「うん?オレの妄想か。ビックリすんなや、メートルダールや。AJC杯でシャケトラ、フィエールマンには負けたけどジェネラーレウーノやダンビュライトには先着してんねんから。ヤル気出した時のこの馬は強いんやけどな。あとは、やる気を出させるだけや。和田竜二に期待したい」
妄想ゲンの選んだ1頭だ。
「うちは、サウジアラビアロイヤルカップで女の子のクラヴァシュドールが当たったから、ここも女の子でウラヌスチャームにするわ」
歌手志望のコノハはあくまで牝馬に執着。
「そしたら私はグローリーヴェイズやな。安定してるやろ」
まとめ役のマスターらしい選択。
「エタリオウだな。『最強の1勝馬』、秋は巻き返しの時だ」
熱を入れるのはサイトウサンだ。
「わたしはノーブルマーズ。なんとなく閃いたんよ、1枠1番」
閃きは初心者アヤノ。
「エ~ッ、最後か。僕もアナ狙いたいんやね。アドマイヤジャスタ。オーストラリアでG1を獲ったアドマイヤラクティの半弟なんやけど。アドマイヤラクティはG1連覇を狙ったメルボルンカップのレース後に心臓麻痺で死んだんやけど、きっと兄の遺志を継ぐ馬が現れると思てる。ホープフルS2着。ジャスタはその資質を持ってる思うんやけどなぁ」
ロマンを求めるのは大学生カンダだ。
これで決まり。京都大賞典は3連単ボックス、①④⑩⑪⑬⑯。
営業時間はとっくに終わった『我楽多ほーる』。
みんなのそれぞれの競馬予想は果てしなく、テレビ画面でラグビーで日本を応援し、夜中からは世界陸上観戦。
基本はあくまで競馬予想。
みんな帰ることを忘れ、いまは、ひたすら『4×100m決勝』のその時を待っている。
(つづく)