(この物語は現実の競馬と同時進行の小説です。主人公は競馬で身を立てることを決心したギャンブラー。1978年から現代に時空を超えて飛ばされてきた男。はたして生きながらえるのか?馬券必勝法はあるのか?)
4月11日。
気分転換。風子は青井戸を外に連れ出すことにした。
「またきょうも馬券の研究?たまには外出ようよ。天気もええんやし」
「え?どこに」
「楽しいとこ。うちユニバ行きたいねん。知ってる?USJよ、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」
「ああ、テレビのコマーシャルでやってた遊園地?」
「遊園地ちゃう、テーマパーク。人いっぱいやけど、うち、好きやねん。みんながニコニコしてる中にいるだけで、なんか、楽しい気になるやん」
「そうかぁ。いつも風子ちゃんには競馬につき合ってもらってるし、文句は言えないね」
「文句て、いやいやつき合うん?そしたら一人で行くし」
「いやいや、行く、行くよ。喜んで」
どうあろうと、風子率先となる青井戸と風子の行動。青井戸はついて行くしかなかった。
『倍倍方式』のマイナスの連続で落ち込みが激しかった青井戸だが、きのうの反省で一転して意欲が満ち溢れた。
そうなれば、そうなればで、気合の入れ過ぎが逆目に出そうなのが青井戸。
風子と連絡を取り合っていろいろとアドバイスをくれている鷲尾老人からの指摘だ。
「すぐに落ち込むんだけど、また、すぐにモチベーションを上げるのも彼のいいところ。ただ、時として極端なんだから彼は。気合が入り過ぎて、一つひとつのレースに絶対の自信を持ちたがるんだよね。そんなものはムリなのに。でも、考えて、考えて、考えすぎてどれを選んでも不安が消えない。挙句の果ては選べなくなる。そういう事態になると最悪。気合を込めて予想するのは当然だけど、考えられる中での最善を選ぶのがプロ。それぞれに顔の違うレース、大事なのは目の付け所。荒れるレースなのか?固いレースなのか?その中で8倍以上の配当をゲットするにはワイド・馬連・3連複、どれが最善か?それを見定めるのに大切なのは平常心なんだよね。そのためにはリラックス、心の余裕。そこんとこを上手く誘導してあげてほしいんだ。風子ちゃんには難しいお願いだけど、君ならできる」
19歳の女の子、風子が見ていてもわかるモチベーションの上がり下がりの激しい青井戸。
それを上手くコントロールさせよ、といっても難しい話。
「やってみます」と答えても、実際、どうすりゃいいか?
とにかく、リラックスできる時間をつくろう。27歳青井戸、19さう風子、年齢差の割には風子の意見を素直に聞く青井戸。折を見て、鷲尾老人の言葉をそのままぶつけてみよう。
あれこれ方法を考えるよりストレートに伝えて、自分で考え差すのが一番か。
とりあえず、いつもと違う場所でリフレッシュだ!
それに、正味、USJに行きたかった風子。たまには女の子らしく春を満喫したかった。
東京ディズニーランドが千葉・浦安に誕生したのが1983年。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが大阪にできたのは2001年。
1978年からやってきた青井戸にとってテーマパークの存在は未知なものだった。
『遊園地の延長』程度に理解していた青井戸にとって、テーマパークの充実ぶりは想定外だった。
人気であろう、人々が群がるアトラクションは凄いんだろうが、普通に人が行きかうニューヨーク、サンフランシスコ・・・・・・青井戸自身、行ったことはないが映画、テレビで知る街並みを想像させるエリア。そこを歩くだけでも十分楽しかった。
すれ違う人々の顔、顔、顔、どれも笑顔。この空気感が、何よりもテンションを上げてくれる。
長時間の待ちも、さして苦にならなかった。
高所恐怖症も、顔を引きつらせながらも乗れた青井戸。
お約束の、笑いが込み上げるバタービールの泡。
ぬいぐるみ大好きだったのか!プレゼントに大喜びの風子。
風子の笑顔に癒された青井戸のユニバ・デビュー。
風子のリフレッシュ作戦は大成功の一日に終わったか。
忘れていた楽しさ。青井戸にとっては1978年代でも、すでに忘れていた感覚だった。
誘ってくれた風子には感謝だ。
それに乗じたわけではないが、帰り道、鷲尾老人の言葉を忠実にぶつけた風子。
青井戸の心に素直に染み入った。
「そうだよな、意気込みだけのギャンブラーじゃ、まだまだ素人。がんばらなくちゃ。ありがとう、風子ちゃん」
青井戸の目の輝きに、嬉しく思えた風子だった。
(つづく)