(この物語は現実の競馬と同時進行の小説です。主人公は競馬で身を立てることを決心したギャンブラー。1978年から現代に時空を超えて飛ばされてきた男。はたして生きながらえるのか?馬券必勝法はあるのか?)
 
 
4月10日。
 
再出発した『倍倍方式』、なんと、なんとの2日連続の10回限度外れ。まだ、10万以上のプラスがあるとはいえ、青井戸にとっては大ショック。
 
喫茶『我楽多』で風子とともに反省会が粛々として行われていた。
 
粛々というより、青井戸は意気消沈。
 
 
青井戸と知り合って3カ月余りの風子。わかりやすい青井戸の性格はほぼつかんだ。
 
しおれている時は人の意見を素直に聞く青井戸、ここは27歳青井戸のギャンブラーとしてのプロ意識を植え付けなければ・・・・・・19歳風子の方が精神的にはずっと大人、か。
 
 
「次の日に継続するんは、確かに意識してやりづらいとは思うんよ。でも、それを乗り越えんかったら、ピンチをチャンスにでけんくなるやん。一日に3レース、4レース当てても、当たらん時が10回続く時もあるやろ。それは時の運。そやけど、プロとして最善の配慮したなかでの連続アウトやったんか?見極めておく必要がある、思うんよ」
 
心のどこかで『時の運やから、切り変えてがんばろ』的な言葉を期待していた青井戸。
 
 
風子は、青井戸には黙っていたことを語り出した。
 
「実は、この『倍倍王式』をうちに教えてくれたんは鷲尾のおじさんやねん。俊のこと、一番気遣ってくれてんのは、あの人やねんで。鷲尾のおじさんは若い時から馬券を研究してたみたい。ほんで、たどり着いたんが『倍倍方式』やねんて。いろいろ壁にぶつかって、実戦経験を積み重ねはったらしいけど、ある理由で完成まではでけへんかったみたい。内を通じて俊になんとか完成してほしいみたいよ。いままでのこと、全部報告してる。そのたんびにアドバイスしてくれてる。うちが俊にしてるアドバイスはみんな、おじさんからのアドバイス。先駆者のアドバイスやから間違いないねんから。鷲尾のおじさんは今度の件も予想してはったわ。どこかでぶつかる壁やて」
 
確かに、競馬は好きでも馬券も買ったことのなかった風子に『倍倍方式』を考え出せるとは、よくよく考えればおかしい話。
 
でも、上から目線、自信満々に語る風子を見て、疑う心の無かった青井戸。
 
さりとて、誰の発案であろうと『倍倍方式』への信頼は揺るいではいなかった。
 
(競馬で勝てる方法。あるとすれば、絶対これだ!いくら順調でも、突然、来るんだな。ピンチがピンチで終わってしまう恐怖。これをクリアする方法を見つけなければ・・・・・・)
 
風子の話を聞くうちに、前向きになりつつある青井戸。やはり、単純。これが、この男の良さでもある。
 
 
「鷲尾のおじさんがいうには、プロとしての決心と見極めやて。例えば、土曜日・7Rの中山、単勝2.1倍・複勝1.1倍~1.2倍、断トツ人気のサニーストーム。これは、まず3着は外せへんやろう、という固さを人気が示しているねんて。確率からいうと、④サニーストームを軸にワイド8倍以上狙い。相手として選べるのが4頭もいてない思たら、馬連も追加。馬連が1,2番人気で決まりそうやったらその2頭軸の3連複。俊が選んだんはサニーストーム軸のワイドは2点だけ、他の組み合わせのワイドが2点。1~3着のほぼ一角を取るサニーストームやん。ワイド3点でサニーストーム外したワイドて1点しかないに等しいのに。それを当てに行くことはどんだけ難しいことか。サニーストーム軸のワイドで8倍以上、20倍以下は3点。結果はそのうちの最も狙いやすい④⑮940円が入ってんねんよ。大荒れレースになったら確率なんか関係ないけど、それは結果論。そん時は運がなかったいうことやけど、この中山7Rはサニーストーム軸という見極めと決心があったら『当てれたレース』といえるやん。日曜日の中山8R。11頭立てで⑤タイキダイヤモンドと②グロンフォールは単勝2倍台の『2強』レース。伏兵馬も格差があって、3着争いに食い込めそうなんは、せいぜい3,4頭。これはレース前に俊も思たことやろうけど、10回限度の最後の勝負レースにするには冒険すぎるレース。案の定、ワイド・馬連・3連複、どれ一つも8倍以下の結果やった。メンバーの見極めと決心でパスするレースやったね。阪神と中山の順番が土・日で入れ替わってるのを、ついうっかりして気づいてなかったこともあるけど、それもプロとして迂闊すぎる。な、プロとして慎重に判断してたら、この2日の大惨事は防げんこともなかったこと。10回に1回、1割の勝率でええ・・・・・・理屈で言うたら難しないこの『倍倍方式』。それでもハズレが思いのほか続くことことがあるのんも当然。『時の運』が大きいやろうな。それでも、細心の注意を払うことによって防げることもあるんよ。『運任せは、いつか絶対に不運の形で跳ね返ってくるから、運をも惹きつけるような最善策でつねに取り組まなアカン』て、これは鷲尾のおじさんのアドバイス」
 
(そうだよな。迷ってる時に、『なんとかなるさ』の判断はダメなんだ)
 
青井戸は、まだまだギャンブラーとして甘さを、素人であることを思い知らされた。『結果オーライ』じゃいけないんだ。ちゃんとした理屈で判断し、答えを導き出すのがプロ。結果、それが違う答えになったとしても・・・・・・その時に思えばいい。なんとかなるさ、『ケセラセラ、それが人生』。
 
 
単純、青井戸の心は次の競馬へ向けて挑戦意欲に満ちていた。
 
 
(つづく)