ロイヤルタッチが亡くなった。
2月2日、繋養先の北海道新ひだか町・畠山牧場豊畑トレーニングセンターで倒れ、1時間半後に息を引き取ったという。享年26歳、老衰だった。
誰もが知る超大種牡馬サンデーサイレンス。
1992年生まれの初年度産駒。フジキセキが朝日杯3歳S、ジェニュインが皐月賞、タヤスツヨシがダービーを制覇。牝馬ではダンスパートナーがオークス制覇。
日本競馬界に衝撃を与えた。
そして、サンデーサイレンスの種牡馬としての地位を、存在感をより高めたのが2年度目の産駒だった。
なかでもクラシックへの期待を集めたのが『サンデー四天王』。
3歳(現表記2歳)暮れの朝日杯3歳Sを勝ったバブルガムフェロー、関西のクラシック登竜門とされるラジオたんぱ杯3歳S1着ロイヤルタッチ、2着イシノサンデー、3着ダンスインザダークの4頭だ。
サンデーサイレンス黎明期に現れた『サンデー四天王』、その1頭。
1993年3月24日、北海道日高町・藤原牧場で生まれたのがロイヤルタッチだ。
父サンデーサイレンス、母パワフルレディ。半兄はダービー馬ウイニングチケット(父トニービン)。
ウイニングチケットの馬主でもあった京都の開業医である故・太田美實氏が所有。
『聖人が病人に触れると不思議な力が湧き、その病気を治した』という中世の伝説からとった名、ロイヤルタッチ。
いかにも医師らしい命名。
1995年12月3日、5R新馬戦デビュー。その日の4R新馬戦を勝ったダンスインザダークとともに、サンデー産駒の新馬戦連勝を決めた。
12月23日、ラジオたんぱ杯3歳S。イシノサンデー、ダンスインザダークと初の対戦。
長きにわたるクラシックの戦いへの序章。勝利したロイヤルタッチは半兄ウイニングチケットのバックボーンもあり、優位な存在となった。
母ダンシングキイ。半兄にエアダブリン(重賞3勝、ダービー2着、菊花賞3着)、全姉にダンスパートナー(桜花賞2着、オークス優勝、菊花賞5着)をもつダンスインザダーク。6月5日の遅生まれのため本格化はまだといわれたが、社台ファーム産の期待馬として名を響かせていた。鞍上は武豊。
3戦2勝、3着1回。ラジオたんぱ杯は1番人気だったイシノサンデー。母ジェフォリーはアメリカからの輸入繁殖牝馬。半兄アリダースルーは持込み馬で中央24戦5勝、地方7戦0勝。サンデー産駒のなかでは『野武士』的存在だった。鞍上は若手・四位洋文。
明け4歳4(現表記3歳)となって、2月、きさらぎ賞で対戦したのはロイヤルタッチとダンスインザダーク。
新馬戦は武豊騎乗だったロイヤルタッチ。その武豊がダンスインザダーク騎乗のため、ラジオんぱ杯に続いてオリビエ・ペリエが騎乗。クビ差、競り勝ったのはロイヤルタッチだった。
3月3日、皐月賞トライアル弥生賞。ジュニアカップを勝ち3勝としたイシノサンデーとダンスインザダークの対決。勝ったのはダンスインザダーク。イシノサンデーは1馬身、ハナ差の3着。
新馬戦から無傷の3連勝、ロイヤルタッチ。皐月賞前のトライアルを使わず、3月17日、中山・若葉Sに出走。折からの不良馬場に苦戦、ミナモトマリノスの2着に敗れた。
3月24日、皐月賞トライアル。始動を開始した『四天王』関東の雄、バブルガムフェロー。チアズサイレンスを下して勝利。
ファンの間で皐月賞『四天王』対決が夢見られたが、右後脚骨折。春絶望となり、秋は天皇賞秋挑戦を選び勝利。クラシックで関西の『四天王』と対戦することは、一度もなかった。
4月14日、皐月賞。ダンスインザダークが熱発で回避。
1番人気はロイヤルタッチとなり、2番人気ミナモトマリノス、3番人気サクラスピードオー。
イシノサンデーは4番人気と支持を失った。
短期免許が切れたペリエに替わって若葉S・蛯名正義だったロイヤルタッチ、新しい鞍上は南井克巳。
後方から差し脚を伸ばしたロイヤルタッチは、先に抜け出したイシノサンデーをとらえきれずに2着。
クラシック第1弾『皐月賞』をイシノサンデーに譲ることとなった。
6月2日、ダービー。
皐月賞を熱発で断念したダンスインザダーク。プリンシパルSを快勝し、いよいよ本格化として1番人気で登場。
2番人気がロイヤルタッチ、3番人気はイシノサンデーだった。
バブルガムフェローの姿はないが、クラシックでの関西3頭の『四天王』そろい踏み。
イシノサンデーは6着と敗れ、ロイヤルタッチは伸びきれず4着。
完全に勝ちを意識したダンスインザダークは、ゴール前、フサイチコンコルドの強襲にあい、クビ差の2着。
秋こそ、残り『1冠』菊花賞にかけるダンスインザダーク。
ロイヤルタッチとて、同じだった。
夏の函館記念から始動したロイヤルタッチは、8月、岡部幸雄を鞍上に古馬相手に6着。
10月、京都新聞杯で3着。ここを始動戦としたダンスインザダークに完敗した。
セントライト記念4着のあと京都新聞杯に出走してきていたイシノサンデーは5着。ついに菊花賞は諦めダート戦へと軌道修正されることとなった。
『サンデー四天王』といわれ、クラシックめざして走り抜いてきたロイヤルタッチ。
長い戦い。思いとは裏腹、離脱を余儀なくされたライバル・・・・・・思いも含めて胸に受け止め走ってきた。
菊花賞も・・・・・・『鬼神』と化したダンスインザダークに挑む。力の限り、負けない、ライバルだからこそ。
11月3日。菊花賞。
1番人気ダンスインザダーク。2番人気フサイチコンコルド、3番人気ミナモトマリノス。
ロイヤルタッチは、6番人気だった。
逃げるローゼンカバリー、サクラケイザンオー。
ダンスインザダークは中団後方。
6番手、好位置につけたフサイチコンコルド。
その外にピッタリと貼り付いたのは、ロイヤルタッチだ。
淡々と進むロイヤルタッチのペース。
3,4コーナー、内から進出を開始したのはフサイチコンコルドだ。
敵はフサイチコンコルドじゃない。
ロイヤルタッチは、後ろのダンスインザダークを待った。
4コーナー、先行勢に襲いかかる後続。
直線、いち早く内から抜け出したのはフサイチコンコルド!
いや、まだだッ。
場内に響き渡る大歓声!
背中に感じた恐ろしいほどの気迫。
来たッ、これがダンスインザダークだ!
ロイヤルタッチはエンジンを全開した。
溜めに溜めた脚力。
いま、このために!
グイグイ伸びたロイヤルタッチ!
抜け出したフサイチコンコルドを追った。
その背中、恐ろしいほどのスピードで迫ってきたのは、
ダンスインザダーク!
皐月賞は走れなかった。ダービーはゴール前で差された。
菊花賞、何がなんでも、獲るッ!
ダンスインザダーク、
その差し脚の凄まじさ。
でも、負けないッ!
併せ馬のように伸びるロイヤルタッチ!
気が遠くなるほど、脚を動かした。
フサイチコンコルドに迫る、
ロイヤルタッチ!ダンスインザダーク!
ゴール前、影が重なった3頭。
フサイチコンコルドをクビ差とらえた、ロイヤルタッチ!
そのロイヤルタッチを、
半馬身、抜き去っていたダンスインザダーク!
強かったライバル。
負けたが、悔いはなかった。
屈腱炎、菊花賞制覇とともに引退したダンスインザダーク。
皐月賞を勝ったイシノサンデーはダートに路線変更、また芝に逆戻り。だが、皐月賞の輝きは取り戻せなかった。
4歳(現表記3歳)で天皇賞秋を制したバブルガムフェローは宝塚記念2着、天皇賞秋2着、ジャパンカップ3着、存在を示したが古馬になって無冠。5歳で引退。
ロイヤルタッチは菊花賞以後、有馬記念4着、京都記念2着、産経大阪杯3着、天皇賞春競走中止、天皇賞秋4着、ジャパンカップ11着。勝つこともなく1年間の休養の末、走ることなく引退となった。
思えば、『サンデー四天王』としてクラシックすべてを走り切ったロイヤルタッチ。
『四天王』で唯一G1を勝てなかった馬だけど、充実感は一番だったか?
種牡馬となって、
世に送り出した活躍馬はアサヒライジング。
桜花賞4着、オークス3着、アメリカンオークス2着、秋華賞2着、エリザベス女王杯4着、ヴィクトリアマイル2着。父そっくりのG1がんばって、がんばって、がんばった馬。
サンデーサイレンス産駒種牡馬が飽和状態のなかで、
次第に種付け頭数が減り、2013年、種牡馬引退。
功労馬として余生を送っていた。
何もすることのない日々のなかで、
老衰を迎えるまで生き続けた。
ストレスもない穏やかな日々を過ごした象徴。
すべて、すべて、君は・・・・・・やりきったんだね。
君に『冠』はなくても、寿命を全うした大きな『勲章』がある。
安らかに・・・・・・・・・・・・・合掌。