気象庁が『命に係わる猛暑』、『災害とみなしてもいい』と発表するほどの日本列島の酷暑。

 

そんな中で行われようとする高校野球『夏の甲子園』。

 

『秋開催にしろ』、『ドーム球場でやれ』、『いつまで甲子園にこだわる』・・・・・・俄かに甲子園を槍玉にあげた意見が、マスコミやネットで飛び交うようになった。

 

 

深くを知らない人にとっては、ごもっともな発想だろう。

 

 

 

甲子園は高校球児にとって『聖地』。

 

じゃあ、『聖地』って何だろう?

 

 

 

私にとって甲子園は50年、半世紀前の想い出。

 

いまの球児にとっては別次元、過去の遺物かもしれないけど、『甲子園100年』の歴史のなかで、球児の根底に流れているものは同じじゃないかな?

 

 

 

私が生まれ育ったのは甲子園のある西宮の隣、尼崎市。

 

甲子園球場はよく見に行ったもの。

 

高校入学前に行われた『センバツ高校野球』。どこの高校かわからない応援団とアルプススタンドで見て思った。

 

『いいなぁ、オレもここで野球をやりたい!応援団に囲まれて。ひっそりと両の拳を胸の前で組んで応援する女の子。こんな子がいて・・・・・・」

 

 

私の甲子園は妄想から始まった。

 

 

入学式の日に、意を決して散髪屋に行き坊主にして、次の日、野球部へ入部届を出した。

 

小学生の時は少年野球チームに入っていたが、中学は帰宅部だった私。同中の野球部員だった友に、驚きの目で迎えられたのを覚えている。

 

 

かつては甲子園出場もある県立の公立高校。

 

入部して知ったことではあるが、部員数も少なく1年生が入ってようやく試合ができるというのが実情の野球部。甘く見ていたのは私ばかりではなかった。

 

昼休みは走って部室に行き5分で昼食、残りの昼休みはグラウンド整備。授業が終わるとダッシュで部室、着替えてグラウンド整備、陽が落ちてボールが見えなくなってからのランニング。

 

もちろん、練習中に水は飲めない時代。

 

唯一の水分補給はタオルをつけるために用意されたバケツの水。汗をぬぐうための後ろポケットに入れたタオル、フリーバッティングが終わるとバケツにバシャッとつけると絞らずに後ろポケットに。

 

守備位置について汗を拭くふりをしてチューチュー吸うワケだ。

 

毎日替えるでもない汚れ切ったタオル。3年生から始まるフリーバッティング、1年生が使うころにはバケツの中はもうドロ水。それでも、バシャッとつけて大事に大事にポケットに忍ばせて・・・・・・救われるひと時だった。

 

 

練習終わりの1,2,3年生、輪になってのミーティング。これも地獄だった。

 

要は、3年生、2年生からの説教。練習中の些細なことを指摘され、校庭の端まで走り戻ってくる。もちろん、全速、1年全員共同責任だ。

 

場合によっては『ハイ』という返事の声ひとつで走らされる。これはもう、走らせることが目的。

 

 

3年生が帰り、2年生が帰り、1年生だっけになった時、『オレたちが上になったら、絶対こんなことはやめとこな』、よく誓い合ったものだ。

 

だが、2年生になり、3年生になり、同じことを1年生に強いるのは一番文句を言っていたヤツ。人は権力を握ると横暴になるのか?悪しき伝統。

 

 

夏前になると練習を見に来るOBの数が増え、おおいときは部員とマンツーマン状態。

 

練習はより過酷に、激しく、厳しくなる。

 

土質が悪くガタガタ状態のグラウンド。イレギュラーバウンドも多く、真剣に、顔面に当たったら休める、よく思ったものだ。躊躇せずボールへ突っ込む・・・・・・が、なかなか当たるもんじゃないのが、現実。

 

 

そんな辛いならやめちまえッ、誰もが思うこと。でも、やめなかった。

 

なんでだろう?

 

 

妄想・・・・・・と言われようが、やはり、めざす先にあるのは『甲子園』。

 

 

予選、地方大会であっても応援スタンドには母校の仲間たちが手を振る。大声で声援を送ってくれる。

 

この中で、オレたちはやってるんだ!

 

勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい!

 

勝って甲子園に行くんだ。

 

 

負けても、学校であった友たちが、口々にいってくれる。

 

『惜しかったな』『がんばったやん』『来年も応援に行くゾッ』

 

 

だから、私は高校野球を続けられたと思う。

 

 

アルプススタンドにあふれかえる応援団。その熱気と声援を受けて、バッターボックスへ立ちたい。できればヒットを打って声援に応えたい。

 

憧れのブラックボードに浮かぶオレの学校、俺の名。

 

 

やっぱり、夢の先にあるのは甲子園球場。

 

 

 

大昔と違い、いまや練習中の水分補給は当然。あらゆる面で悪しき伝統は排除されているだろう。

 

野球に対する球児たちの思いも、随分違うかもしれない。

 

 

ただ、この暑さの中で予選を戦う球児を見て、根っこにあるのはそう変わらないんじゃ・・・・・・そう思った。

 

 

高校野球を始めた動機は人さまざまだろう。だが、根底にあるのは若さの中にある有り余るパワーの発揮する場所を求めているんでは。

 

輝きたい!若いころ、誰の心にもあった願望だと思う。

 

1㍉の可能性でも、それを奥底に秘めているからこそ辛さは乗り越えられる。

 

 

野球で輝きたい・・・・・・球児の夢の先にあったのが甲子園。

 

甲子園の土、甲子園の芝生、甲子園のブラックボード、甲子園のアルプススタンド・・・・・・それはもう、刷り込みかもしれない。

 

100年、面々と続く球児たちの心に刷り込まれた『聖地』甲子園。

 

 

『猛暑、身の危険』、安易な正論で葬り去ってほしくない。

 

 

球児なら誰もがわかっていることだろうけど、練習よりはるかに試合の方が体力的にはラク。きついのは投手。最近では各校とも投手を複数擁し、継投で試合を乗り切っているので昔ほどの一人エースの負担はないとは思うが。

 

何といっても気になるのは選手より応援、観客の人たち。暑さにも慣れていないし、くれぐれも注意していただきたい。

 

 

 

『夏の甲子園』より本当に危惧するなら、予選で敗れ新チームで活動する球児の練習のきつさだろう。

 

夏の予選敗退とともに3年生は引退、1,2年生でつくる新チーム。8月の終わりごろから地域のブロック大会は始まるのだ。

 

何ということない小さな大会と思うかもしれないが、来年春の『センバツ』への戦いがもう始まっている.わけだ。

 

その上位が県・府大会に出場。その上位が地区大会に出場。選抜には建前としていろいろ項目があるが、選抜されるほぼ決定条件は地区大会の成績優秀校。

 

夏から始まる大会ですでに『センバツ』への明暗は決する。

 

 

新チームといってのんびりしているワケにはいかない。

 

甲子園に話題が行っているさなかに、猛練習に励む新チームの球児。

 

 

本当に気遣わなければいけないのは、この球児たちの健康と命ではないだろうか!

 

 

ただ、ただ、指導者の配慮に期待したい。