天皇賞馬、かつて一度きりの栄冠だった。
1981年、『勝ち抜け制』が廃止されるまでは、天皇賞を制覇した馬は二度と天皇賞を走ることを許されなかったわけで、天皇賞2勝、3勝は考えられない現実だった。
可能となった天皇賞2度以上の制覇。
1981年から現在まで、その数は少ない。
天皇賞春・春、メジロマックイーン、ライスシャワー(1993年・1995年)、フェノーメノ、キタサンブラック。
天皇賞春・秋、タマモクロス、スペシャルウィーク。
天皇賞秋・春、スーパークリーク。
天皇賞春・秋・春、テイエムオペラオー。
前年、天皇賞春・秋を制したメイショウサムソン。
天皇賞春・秋・春3連覇を含むG1・6連勝を果たしたテイエムオペラオー、まさに怪物的な走りを見せた。
その名馬の、最も充実期に成し得た偉業に挑む。
有馬記念1番人気で不覚を取った8着。
4月、産経大阪杯。ダイワスカーレットの6着。
どうした?メイショウサムソン。
大きな不安はよぎる。
でも、目の前にある大偉業のチャンス、逃したくない。
突き進むしかないッ。
皐月賞7着、ダービー2着、菊花賞を制してG1馬となったアサクサキングス。
10戦4勝、2着2回。NHKマイルカップ11着、宝塚記念15着、二桁着順。
好走・凡走を繰り返す。強いのか、弱いのか?
4月始動戦、産経大阪杯はメイショウサムソンに先着した3着。
距離延びた天皇賞春こそ、真価を発揮して見せる。
メイショウサムソンとは同期。クラシックとは縁のなかったアドマイヤジュピタ。
父フレンチデピュティ、母ジェイズジュエリー。母父リアルシャダイ。従兄に当たるのが、ダービー2着、菊花賞3着、アドマイヤメイン。
3歳春、ゆきやなぎ賞(500万下)を勝ち、これからという時に右後脚飛節骨折。
1年4カ月の休養、走ることさえできなかった成長期。
悔しさの中で復帰したのは4歳7月。
不安よりも、闇から解き放たれた喜びの方が大きかった。
1,2,1,1,4,1着。アルゼンチン共和国を勝ち、阪神大賞典でアイポッパー、ポップロックを破り、一気に天皇賞春有力候補にのし上がった。
日経新春杯、ダイヤモンドSを勝ち頭角を現したアドマイヤモナーク。
宝塚記念4着、重賞2勝、アドマイヤベガ産駒アドマイヤフジ。
アドマイヤジュピタの従兄、サンデーサイレンス・ラストクロップ、アドマイヤメイン。
4頭が出走してきた『アドマイヤ』軍団。その勢いの象徴か?
次こそは、次こそは・・・・・・G1制覇にあくなき挑戦をするポップロック。
メルボルンカップ2着、有馬記念2着、ドバイシーマカップ6着、宝塚記念3着、天皇賞秋4着、ジャパンカップ2着、有馬記念5着。
7歳となっても、挑む熱さだけは失わない。
皐月賞2着、ダービー3着、菊花賞2着、ジャパンカップ2着、有馬記念4着。
メイショウサムソンとともに走ったドリームパスポート。
4歳春を骨折で休養。ジャパンカップから復帰も、14着。有馬記念6着。
1月・アメリカジョッキークラブカップ5着、2月・京都記念4着、4月・産経大阪杯4着。
ひたすら復活をめざすドリームパスポート。
父メジロマックイーンのホクトスルタン。
メジロアサマ、メジロティターン、メジロマックイーン、競馬史上に残る父仔3代芦毛の天皇賞馬。
父仔4代・・・・・・その使命を授かるホクトスルタン。
父と同じ、初クラシックは菊花賞だった。菊花賞馬の父とは程遠い6着。
3月、サンシャインS(1600万下)・芝2500mを6馬身差で逃げ切り勝ち。
オープン馬となって、堂々の天皇賞春挑戦。
前年、天皇賞春3着。長距離ランナー、トウカイトリック。
8歳となったアイポッパー。天皇賞春3着、4着、4着。4度目の挑戦。
古馬長距離G1、天皇賞春・・・・・・芝3200mのドラマが始まる。
5月4日、天皇賞春。
1.サンバレンティン
2.アドマイヤフジ
3.アドマイヤモナーク
4.ホクトスルタン
5.トウカイエリート
6.アドマイヤメイン
7.ドリームパスポート
8.メイショウサムソン
9.ドリームパートナー
10.ポップロック
11.トウカイトリック
12.アイポッパー
13.アサクサキングス
14.アドマイヤジュピタ
1番人気アサクサキングス、2番人気メイショウサムソン、3番人気アドマイヤジュピタ。
4番人気ポップロック、5番人気ドリームパスポート。
スタート勢いよく飛び出したのは、ホクトスルタンだ。
メジロマックイーンの芦毛産駒。
父仔4代の偉業へ・・・・・・横山典弘は躊躇なくハナを切った。
出遅れたのは最内サンバレンティンと、大外アドマイヤジュピタ。
トウカイトリック、トウカイエリートが2番手で並び、
出負けしたか?アドマイヤメインが内から上がって行った。
1周目の正面スタンド前、迫力に満ちた逃げ脚で先頭を行くホクトスルタン。
芦毛がキラキラ光る。
父仔4代制覇・・・・・・を知るファン、大きな拍手が起こる。
3馬身、4馬身、引き離すホクトスルタン。
2番手に上がってきたのはアドマイヤメインだ。
3番手トウカイトリックに並んできたのがアサクサキングス。
トウカイエリート、アイポッパー、ポップロック、アドマイヤフジが固まり、
中団後ろ目から行くのがメイショウサムソン、内にドリームパスポートが並んだ。
馬群の後方に出遅れたアドマイヤジュピタ。
ポツン、ポツンと馬群から離れた2頭。
アドマイヤモナークと、最後方サンバレンティンだ。
1000m通過61秒1、3200mとしては平均ペース。
好位につけたアサクサキングスのペースか?
どこからスパートする?メイショウサムソン・武豊。
軽快逃げるホクトスルタン。
3コーナーから動いたのは、アサクサキングスだ!
逃げるホクトスルタンを追って、
4コーナーめがけて2番手へ上がった。
合わせて、外から捲ったメイショウサムソン。
春・秋・春の大偉業、
何がなんでも、つかみ取るッ!
その形相を変えた。
直線、最内を回ったホクトスルタン。
迫られた差を再び3馬身、開いた!
振り絞る最後の力。
外目から追い上げるアサクサキングス!
四位洋文のムチが飛んだ。
その外、追い上げてきたのはメイショウサムソンだ!
さらに、その外。
凄まじい勢いで伸びてきたッ!
岩田康誠が手綱を取るアドマイヤジュピタだ!
内で粘るホクトスルタンに襲いかかる人気馬3頭。
凄まじさに、
ホクトスルタンの抵抗は空しかった。
アドマイヤジュピタが伸びた。
大外から先頭に立った!
勢いに負けたアサクサキングス、メイショウサムソン。
負けてられない、
負けてはいけないッ。
動けッ、私の脚!
メイショウサムソンが甦った。
アドマイヤジュピタの内をえぐるように突き抜けた!
先頭だ!
メイショウサムソンが先頭だ!
1馬身、前に出たメイショウサムソン。
大偉業、天皇賞春制覇。
誰もが思った。
その時、
信じられなかった。
アドマイヤジュピタが、
再び、盛り返したのだ!
半馬身、
クビ、
アタマ、
一完歩ずつ、
メイショウサムソンに迫った。
何が起こったのか?
わからぬメイショウサムソン。
懸命に、
懸命に、
脚を動かした。
長かった1年4カ月の休養。
走れることの喜びは、何よりも強かった。
ゴールへ向かって全力を出す。
ただ、それだけ。
アドマイヤジュピタがゴールを駆け抜けた時、
天皇賞馬の栄冠は、
輝いていた。
1着アドマイヤジュピタ
アタマ
2着メイショウサムソン
2馬身半
3着アサクサキングス
4分の3馬身
4着ホクトスルタン
1馬身4分の1
5着アドマイヤフジ
(つづく)