スプリント決戦、高松宮記念。
 
デュランダルが引退。アドマイヤマックスも香港スプリントを最後に引退と、スプリント王が消えて行った。
 
 
 
 
世代交代の波の中で期待馬に祭り上げられたのが、4歳外国産馬シンボリグランだった。
 
5,14,3,4,2,3,5,1着。未勝利脱出まで8戦を要した。
 
やっと、やっとの初勝利。大いなる期待もない、野望もない勝利だった。
 
3歳4月、11戦目。初めて走った芝1200mを勝利。そこから大きく変わった。
 
短距離路線に見い出した一筋の光。
 
 
3歳暮れにはCBC賞(G2)勝利。
 
4歳始動戦、オーシャンSはネイティヴハートの3着と敗れたが、叩き2走目の上積みがあれば・・・・・・若さへの期待感がシンボリグランに集中した。
 
 
 
 
 
初のスプリント戦に挑むマイルの女王。
 
ラインクラフトにも高まる期待は否めない。
 
 
桜花賞でシーザリオを破り、NHKマイルカップを制したラインクラフト。
 
ライバル、シーザリオはオークスを獲り、アメリカンオークスをも制覇。
『世界の女王』となったまま引退。
 
置き去りにされた観のあるのはラインクラフトの方だった。
 
 
秋華賞でオークス2着エアメサイアに敗れ、古馬相手のマイルチャンピオンシップではハットトリックの3着。
 
負けじ魂でがんばってはいるが、勝ちきれない。
 
暮れの阪神牝馬Sでは、なぜかハナを切ってしまい4着に敗れた。
 
 
春を待った。何かが変わる春。
 
歴戦の強者(つわもの)、スプリントに生きる古馬たち。
 
ただ、挑む気持ちだけで走ろう。
 
 
 
 
 
3歳時は桜花賞2着したシーイズトウショウ。
 
スティルインラブ、アドマイヤグルーヴのライバル対決の狭間でがんばり続けた。
 
 
父は短距離王サクラバクシンオー。父の走った短距離にチェンジしたシーイズトウショウ。
 
3歳12月・CBC賞、4歳7月・函館スプリント、5歳7月・函館スプリント、重賞3勝。積み上げてきた実績。
 
6歳になっても、ひたすら追求するスプリントの道。
 
スティルインラブも、アドマイヤグルーヴも、母への道を歩みだしている、いま。
 
シーイズトウショウは、高松宮記念、スプリント女王を狙う。
 
 
 
 
ダート重賞のガーネットS、根岸Sを連勝。フェブラリーSへ出走したリミットネスビッド。
 
さすがにダートG1の壁は厚く11着に敗れた。
 
サンデーサイレンス産駒、全兄は弥生賞を勝ったフサイチゼノン、4戦4勝でスプリングSを勝ったアグネスゴールド。
 
捨てきれない芝への思い。
 
兄たちはトライアルを勝ちながら、挑戦できなかった皐月賞。
 
リミットネスビッド、高松宮記念に望みを賭けた。
 
 
 
 
祖母はオークス馬ダイナカール、叔母は『女帝』エアグルーヴ。
 
良血オレハマッテルゼ。
 
2005年5月、晩春Sを勝って条件クラスを卒業。
 
19戦目、5歳半ば、決してエリートとはいえないオレハマッテルゼ。
 
初めて走ったG1は安田記念は11着だった。
 
 
6歳になって、1月・京都金杯9着、東京新聞杯2着、2月・阪急杯3着。
 
曲がりなりにも良血に恥じないレースができるようになった。
 
いや、良血なんてどうでもいい、5歳上の全姉に見せたかった・・・・・・晴れ姿。
 
 
名前しか知らない姉。その最後にまつわる物語は、厩舎の伝説となっていた。
 
その名はエガオヲミセテ。栗東・音無秀孝厩舎。重賞2勝、エリザベス女王杯3着。
 
2002年2月11日未明。宮城県亘理郡山本町、社台グループの馬たちの育成・休養施設、山元トレーニングセンターで火災発生。厩舎1頭が全焼した。
 
22頭が焼死、その中にいたエガオヲミセテ。
 
3日後の東京ダイヤモンドS、音無厩舎のベテラン8歳(現表記7歳)ユーセイトップランが、3コーナーから猛然とスパート。1年3カ月ぶりの勝利を上げた。
 
悲しまないで、笑顔を見せて・・・・・・思いに応えたか?ユーセイトップランの激走。厩舎スタッフは勇気づけられたという。
 
 
珍名で知られる小田切有一氏のつけた名、オレハマッテルゼ。
 
きっと、待っているのは姉だ、エガオヲミセテだ。
 
父サンデーサイレンス、母カーリーエンジェル。姉にとって初めての全弟。
 
姉が成し得なかったG1制覇。エリザベス女王杯3着、光が見えた矢先の『死』という闇。
 
弟だから、全弟だからわかる。きっと、姉は待っている。果たせなかったG1制覇。
 
 
きっと、いつか・・・・・・エガオヲミセテ。
 
 
 
人が感じる『ロマン』の筋書きなど、瞬く間に微塵にする競馬の現実。
 
馬たちには、結果がすべての真実なのだから。
 
 
 
3月26日、高松宮記念。
 
1.キーンランドスワン
2.トウショウギア
3.プリサイスマシーン
4.マルカキセキ
5.マイネルアルビオン
6.ネイティヴハート
7.リミットレスビッド
8.ブルーショットガン
9.シンボリグラン
10.カネツテンビー
11.オレハマッテルゼ
12.ギャラントアロー
13.シーイズトウショウ
14.ラインクラフト
15.ウインクリューガー
16.タマモホットプレイ
17.ゴールデンキャスト
18.コパノフウジン
 
 
1番人気シンボリグラン、2番人気ラインクラフト、3番人気シーイズトウショウ。
 
4番人気オレハマッテルゼ、5番人気リミットレスビッド。
 
 
コパノフウジンが好スタートも大外。
 
ハナを切ったのは2番手スタートからダッシュを決めたギャラントアローだった。
 
 
プリサイスマシーンが内から、外からシーイズトウショウ。
 
ラインクラフトがその後につけた。
 
 
続く一団の馬群。
 
リミットレスビッド、マルカキセキ。
 
ブルーショットガン、ネイティヴハートらがひしめき、
 
馬群の中で徐々に後方に追いやられたのがシンボリグランだ。
 
気がつけば、後方3,4頭目。やむなし鞍上・デムーロ。
 
最後方は、キーンランドスワンだった。前年2着馬、7歳の挑戦。
 
 
 
3ハロン、33秒7。平均ペース。
 
 
 
逃げるギャラントアロー。
 
4コーナーへ向かって、外から追い上げる牝馬2頭。
 
 
シーイズトウショウ・池添謙一、ラインクラフト・福永祐一だ!
 
抜群の手応え。
 
 
シーイズトウショウ、見えたか?悲願。
 
敵は、外にいるラインクラフトだ!
 
 
直線、ギャラントアローを前に、
 
マッチレースに持ち込もうとするシーイズトウショウ、ラインクラフト。
 
 
内をすくったのは、プリサイスマシーン。
 
地方・園田から中央に移籍してきた岩田康誠が、渾身のムチを振るう。
 
 
 
その時だ。
 
シーイズトウショウの内から電光石火の伸び。
 
 
かつてない切れ味で先頭に立った。
 
 
オレハマッテルゼだッ!
 
『緑、白玉霰、白袖赤二本輪』、あのエガオヲミセテの勝負服が、
 
先頭に立った。
 
 
シーイズトウショウを振り切り・・・・・・前にいたオレハマッテルゼ。
 
 
ラインクラフトが懸命に追った!
 
またしても、何かにやられる。
 
もう、いやだッ。
 
 
我武者羅(がむしゃら)に、
 
勝ちに行ったラインクラフト。
 
 
 
なぜか、みなぎる力。
 
抜け出したオレハマッテルゼに、後退はない。
 
 
姉さん、とっておきの笑顔を、いま、
 
見せてやるッ!
 
 
ゴールに飛び込んだ! オレハマッテルゼ。
 
 
 
1着オレハマッテルゼ
クビ
2着ラインクラフト
1馬身4分の3
3着シーイズトウショウ
アタマ
4着プリサイスマシーン
アタマ
5着ネイティヴハート
 
 
(つづく)