3歳時、2勝目を上げ連闘でG1・阪神3歳牝馬Sに臨み、勝利。3戦3勝、デビューからわずか1カ月足らずでG1制覇という偉業を達成したスティンガー。

関東のリーディング・トレーナーをひた走る藤沢和雄師のもとで、トライアルを使わず桜花賞に直行。

常識にとらわれない藤沢流のローテーション。1番人気も結果は直線伸びず、プリモディーネの12着に敗れた。

思わぬ大敗。


桜花賞からオークス直行組が多い中、トライアル・4歳牝馬特別に出走したスティンガー。

桜花賞2着のフサイチエアデールをクビ差破り、勝利。

オークスへ・・・・・・リベンジを誓った。手綱を取るのは、藤沢厩舎といえば、岡部幸雄だ。




3歳時、2戦2勝。軽いフレグモーネを発症、大事を取って阪神3歳牝馬Sを回避、休養に入ったプリモディーネ。スティンガーとは対照的なローテーションとなった。

桜花賞トライアル・チューリップ賞を使い4着と敗れ、人気を落とした。

桜花賞では後方から末脚炸裂、フサイチエアデール、トゥザヴィクトリー、強力牝馬をなぎ倒し、福永祐一にG1初勝利をもたらせた。

中京競馬場で落馬、左肋骨2本骨折、左腎臓損傷、重傷を負った福永祐一に代わって、藤田伸二が手綱を取る。


古い近親にアローエクスプレス、皐月賞馬ファンタストがいる名血。

時を超え、復活させたプリモディーネ。

ただ、その血は長距離に泣いた血でもあった。




スティンガー、フサイチエアデールとともにサンデーサイレンス牝馬産駒として期待の大きかったトゥザヴィクトリー。

サンデーサイレンス産駒特有の気性の激しさが、折り合いの難しさとなって現れる牝馬だった。

幸英明で新馬戦勝利。武豊で福寿草特別(500万下)2着、つばき賞(500万下)1着、アネモネS(オープン)3着。

桜花賞は武豊がフサイチエアデールに乗ることとなり、幸英明騎乗で5番人気3着と好走。


オークスでは武豊が鞍上に戻ることとなった。素質開花と見込んだか?




桜花賞2着、フサイチエアデール。

4歳になり、シンザン記念1着、桜花賞トライアル・4歳牝馬特別1着、桜花賞2着。

3歳時に4戦目で未勝利を脱出した馬が、めざましい成長。


オークストライアル・4歳牝馬特別2着も、負けた相手は3歳女王スティンガー。差はクビ差。

憂うものはない。

新しい鞍上となったのは、藤田伸二と同期、若手のホープ四位洋文。G1はイシノサンデーで皐月賞、ダンスパートナーでエリザベス女王杯を制していた。




6戦3勝、2着2回、3着1回で臨んだ桜花賞は4着だったゴッドインチーフ・河内洋。


3月デビュー。3戦2勝、オークストライアル・4歳牝馬特別3着のクロックワーク・横山典弘。



父はサクラユタカオー、母は地方・大井ダートで活躍したウメノローザ。地味な血ウメノファイバー・蛯名正義。

『負けじ魂』で得た重賞2勝も・・・・・・桜花賞6着。満足?いや満足できない。

折れることない『負けじ魂』。




5月30日、オークス。

1.ゴッドインチーフ
2.スティンガー
3.クロックワーク
4.プリモディーネ
5.スターバイオレット
6.トゥザヴィクトリー
7.フサイチエアデール
8.コウヨウヒロイン
9.リワードハミング
10.エイシンワンシャン
11.エイシンルーデンス
12.サクラセレブレイト
13.ピサノガレー
14.ワンダーガール
15.エフテービルサド
16.ウメノファイバー
17.フレンドリーエース
18.カシノリファール


1番人気トウザヴィクトリー、2番人気スティンガー、3番人気プリモディーネ。

4番人気ゴッドインチーフ、5番人気クロックワーク。



武豊騎乗で1番人気となったか? トゥザヴィクトリー。

ダッシュよく飛び出し、先頭。


すぐさま外から行った。桜花賞と同じ、エイシンルーデンスだ。

その外から7枠勢、橙色の帽子3頭、ピサノガレー、エフテービルサド、ワンダーガールだ。



1,2コーナーを回った。

ハナは譲らない! 先頭を行くエイシンルーデンス。


あとを、橙色の帽子3頭が躍った。


5番手内を行くトゥザヴィクトリー。前を行く橙色の壁が、闘争心を和らげた。

2400m、戦い続けては・・・・・・とても、もたない。



フサイチエアデール、コウヨウヒロイン、リワードハミング、エイシンワンシャン。

ウメノファイバー、プリモディーネ、ゴッドインチーフ。


ひしめく中団から後方。


じっくり溜めるのはスティンガー、クロックワークだ。



1000m、60秒8。平均ペース。



3,4コーナー。

後方から捲り勝負に出たクロックワーク、フレンドリーエース。

流れが変わった。


乗り遅れたか? 位置を下げたプリモディーネ、ウメノファイバー。

外に持ち出したスティンガー。流れに乗って中団まで押し上げた。

中団でじっくり脚を溜めるフサイチエアデール。



後方の流れは気にしない。

敵は自分の中にある。


トゥザヴィクトリーは、まだまだ闘争心に火をつけない。

内から、じわりと橙色の3頭の壁を崩し始めた。

5番手から4番手に上がり、直線を待つ。



4コーナーを回って、直線に入った!

逃げるエイシンルーデンス。


ここだッ!


武豊が見つけたVロード。

エイシンルーデンスの外に回り込む進路。


スゥーッと入った。並んだ。


あとは・・・・・・突き抜けろッ!


初めて、トゥザヴィクトリーの闘争心を、パワーを全開にした。


グーンと伸びた。


先頭に立った。



完全に突き抜けた、ただ1頭。


3馬身。



そうはさせない!


スティンガー、フサイチエアデール、コウヨウヒロイン、追撃が始まった。


さらに、


流れに乗り遅れた。プリモディーネだ、ウメノファイバーだッ。


勝ちを意識した、ただ1頭トゥザヴィクトリーをめぐって、


後方で5頭が横並び。


中から飛び出した、抜け出した、追い詰める、2頭!


この末脚で、桜花賞をブッコ抜いた。距離など、関係ないッ!

桜花賞馬の意地、プリモディーネ。



父内国産、地味でも日本レコード(当時)で天皇賞秋を圧倒したサクラユタカオー。

私は、私は、負けはしないッ!

父さん、見ていて!


『負けじ魂』が、弾けて飛んだ、ウメノファイバー。


奇跡の追込み。


トウザヴィクトリー、プリモデーネ、ウメノファイバー、3頭がゴールへ雪崩れ込んだ。

ハナ、クビ。


2400m走って、僅かな、僅かな差。


あまりにも大きなハナ差。


オークス、『樫』の冠はウメノファイバーに輝いた。


1着ウメノファイバー

2着トゥザヴィクトリー

3着プリモディーネ

4着スティンガー

5着フサイチエアデール



(つづく)