1999年、G1第1弾。
1月31日、東京競馬場・ダート1600m、フェブラリーSだ。
2月に行われてのフェブラリーS。唯一、1月末に行われた。
G2からG1へ格上げされて3年目。当時、ダート唯一のG1として『ダート最強馬決定戦』だった。
G1昇格1年目は6番人気、『噛みつき魔』シンコウウインディがストーンステッパーとのクビ差の接戦を制した。
2年目は芝・中山金杯を制したグルメフロンティアが、6番人気もメイショウモトナリに4馬身差の圧勝。
人気馬は、勝てないのかG1・フェブラリーS。
この年、人気を背負ったのは外国産馬ワシントンカラーだった。
G1・スプリンターズS3着、G1・高松宮記念2着、G3クリスタルカップ1着。芝の名スプリンターであり、G3・根岸S連覇(1997・1998年)、G3・ガーネットS制覇するなどダートの強豪でもあった。
芝・ダートともに1200mに実績は集中していたが、マイルにG1奪取の思いをかけて登場。
鞍上は騎手15年目、柴田善臣。叔父・柴田政人には及ばないが、関東の有力騎手として存在を示していた。
芝でNHKマイルカップ5着の実績を持つがダートに転向。3歳4戦、4歳16戦、5歳9戦(後半半年だけ)、タフさで走って走って実力を蓄えていったオースミジェット。
平安Sを勝ち、重賞初勝利。
初のG1出走となった。
骨折で調整が遅れ、ダービーの日に未勝利戦デビューしたタイキシャーロック。
5歳時に5連勝すると、ダート界の新星と謳われた。
6歳、ダート・マイルチャンピオンシップ南部杯を制し、地方交流G1初勝利。
7歳、フェブラリーS・1番人気5着、マイルチャンピオンシップ南部杯2着、G2・浦和記念優勝。
8歳、まだまだ衰えぬ脚力、闘争心。鞍上・横山典弘で中央G1制覇に臨む。
桜花賞馬キョウエイマーチ。デビュー時はダートで2戦2勝。
決して無茶な選択ではない。
芝・マイルチャンピオンシップ2着ビッグサンデー。
24戦目、初のダート戦。
菊花賞馬マチカネフクキタルと対の名、マチカネワラウカド。
ダートで存在を示した。G2・ウインターS勝利は大きな自信。
重賞3勝、エムアイブラン、8歳。
フェブラリーS6着、帝王賞4着、マイルチャンピオンシップ南部杯8着。
49戦11勝、2着11回、3着6回。切れ味『命』で直線勝負。
14歳、95戦目の挑戦はミスタートウジン。
同期はウィナーズサークル、ドクタースパート、バンブービギン・・・・・・。みんな、とっくに競走界からいなくなった。
『百戦錬磨』、自分との闘いミスタートウジン。
地方競馬、岩手・水沢競馬場所属のメイセイオペラ。
かつて、地方で名を挙げ中央へ転厩、多くの馬が夢をつかみに来た。中央の分厚い壁に撥ね返され、夢やぶれていった。
それだけに、なおさらに、人気を得た。中央の馬を撃破した英雄。ハイセイコー、オグリキャップ、イナリワン・・・・・・。
北海道平取町にある零細牧場・高橋啓牧場で生まれたメイセイオペラ。
馬主・小野寺良正がメイセイオペラの母テラミスを繁殖牝馬として生かすために、預託馬として預けたのが高橋牧場だった。『テラミスは娘みたいなもの。何とか生き残らせてほしい』、思いで預託先を訪ね尽くした結果、受け入れたのが高橋牧場だった。
『少しでも預託料がほしかった』、零細牧場の切羽詰まる実情が合致した。
テラミスに種牡馬グランドオペラを付けたのも、『種付け料が安かった』に他ならない。
馬好きで馬主である小野寺良正・明子夫妻にとって、娘のようなテラミスの仔が生まれ、長く走って楽しませてくれれば・・・・・・それでいい。
そんなメイセイオペラは地方・水沢に入厩した。第二の故郷でもある水沢で大事に育てられ、ぐんぐん力をつけていった。
水沢・盛岡中心に6戦目から9連勝。岩手№1ホースにんざるや、東北3県の強豪馬が集結する東北ダービーも制覇。
地方交流G1にも参戦するようになり、盛岡で行われるマイルチャンピオンシップ南部杯ではG1勝利。1998年暮れに大井で行われた東京大賞典では『大井の怪物』アブクマポーロに敗れて2着も、『地方馬の雄』として確固たる地位を築いた。
メイセイオペラ6歳、25戦16勝、2着2回、3着2回。堂々たる戦績で中央馬に挑む。
中央への転厩ではなく、地方所属馬として。
そこには、
夢やぶれても戻れる場所がある・・・・・・馬主の優しさがあり、
『第二の故郷』から離れない・・・・・・メイセイオペラの思いがあった、か?
1月31日、フェブラリーS。
1.マコトライデン
2.ストーンステッパー
3.バトルライン
4.メイショウモトナリ
5.ミスタートウジン
6.マチカネワラウカド
7.キョウエイマーチ
8.ビッグサンデー
9.メイセイオペラ
10.タイキシャーロック
11.ワシントンカラー
12.エムアイブラン
13.オースミジェット
14.テセウスフリーゼ
15.シャドウクリーク
16.ドージマムテキ
1番人気ワシントンカラー、2番人気メイセイオペラ、3番人気オースミジェット。
4番人気タイキシャーロック、5番人気キョウエイマーチ。
ダートでも、逃げてやるッ!
キョウエイマーチが真っ先に飛び出してハナを切った。
前年の2着馬メイショウモトナリが2番手。ビッグサンデー、マコトライデンが追う。
先行馬を見ながら、5番手につけたのがメイセイオペラ。
その後ろにオースミジェット・四位洋文。タイキシャーロック・横山典弘、ワシントンカラー・柴田善臣。
やや遅れてエムアイブラン・武豊。
中央の強豪、有力騎手が地方・メイセイオペラをがっちりマークした。
メイセイオペラ鞍上は水沢の№1ジョッキー・菅原勲。『中央に勝つ!』、思いは人一倍あった。
思いは、菅原だけではない。パドックで掲げられたメイセイオペラに対する応援の横断幕の数。
岩手から駆け付けたファンの多さを映し出していた。
メイセイオペラの馬主であった小野寺良正氏はオペラがデビュー後1カ月に病死しており、妻・明子さん一人が観戦していた。
病魔に襲われながらも、メイセイオペラのデビュー戦を収録した家庭用ビデオを何度も何度も見、将来を楽しみにしていたという。
夫の思いも胸に、妻・明子さんはじっと、じっと、メイセイオペラの栗毛の姿を追っかけていた。
後方から、末脚に賭けるマチカネワラウカド、3年連続出走のストーンステッパー、14歳ミスタートウジン。
15頭の精鋭を引き連れ、逃げるキョウエイマーチ。
辛さも見せず直線に入り、一目散にゴールをめざした!
襲いかかったのは、
5枠黄色い帽子、
メイセイオペラだッ!
菅原勲のムチに応え、グイグイ伸びた。
直線半ば、粘るキョウエイマーチをとらえた。
内から伸びてきたワシントンカラー。
外から、エムアイブラン、タイキシャーロック。オースミジェットも懸命に追い上げてきた。
抜かせない! 抜かせて、なるもんかぁぁあああーッ!
菅原勲は、渾身のムチを振った。
馬主・小野寺明子さんが、震える手で遺影を上げた。亡き小野寺良正氏に、メイセイオペラの雄姿が見えるように、高く、高く。
『あなた見て! 先頭を走ってるわよ、あなたの馬が先頭を走ってるわよ!』
涙をぬぐいもせず、叫んだ。
2馬身差。
メイセイオペラは栄光のゴールへひた走った。
地方所属馬として初めてのJRA・G1優勝馬となった。
岩手から駆け付けたファンの間から『イサオコール』が湧き上がり、ウイニングランに出戻ってきたメイセイオペラの前には横断幕が掲げられた。
『夢をありがとう、感動をありがとう』。
1着メイセイオペラ
2着エムアイブラン
3着タイキシャーロック
4着オースミジェット
5着キョウエイマーチ
(つづく)