春のスプリントG1・高松宮杯。この年、高松宮記念と改称された。
高松宮杯最後の前年はシンコウキングが勝ち、冬のスプリンターズSはタイキシャトルがマイルチャンピオンシップに続いて連覇。
シンコウキングは引退。タイキシャトルは夏の海外遠征を睨み、マイルG1・安田記念に照準。
前年、NHKマイルカップを制した外国産牝馬シーキングザパールが参戦してきた。
短距離中心に8戦6勝でつかんだNHKマイルカップの『冠』。
欲張ったか? それともメジロドーベル、キョウエイマーチ、クラシック女王にひと泡吹かせたかったか? 秋華賞トライアル・ローズS(芝2000m)に挑戦。キョウエイマーチの3着に敗れた。
さらに、喉頭蓋エントラップメントを発症。喉の手術後、休養に入った。
復帰は4月、シルクロードS。2着マサラッキ、3着シンコウフォレストとクビ、クビ差ながらも勝利。復活した。
前年高松宮杯、シンコウキングの3着だったシンコウフォレスト。
同馬主、同じ勝負服の馬を前に見た。他のどの馬よりも悔しかった。
以後、スプリンターズS、7着。重賞では勝てず、オープンで2勝。歯痒さが残ったシンコウフォレスト。
芝1200m、最速タイムが1分8秒3。速いタイムがない。シンコウフォレストにとって、致命傷か?
芝1200m・1分6秒9、日本レコードを持つ快速エイシンバーリン。
前年高松宮杯はタイムがかかり過ぎた。シンコウフォレストとは違う意味で悔しい2着。
以後、快速の見せ場をつくられないままに1年。
願うは、ただただスピード馬場。晴れやかな風に舞いたい!
日本レコードならスギノハヤカゼも黙ってはいない。
1996年、スワンS、芝1400m・1分19秒3。日本一の快速ぶりを見せた『和名』の外国産馬スギノハヤカゼ。
1年半が経った。
手が届くと思っていたG1。負けて負けて遠ざかり、それでも踏ん張って、ようやくつかんだ足がかり。前年スプリンターズS、タイキシャトルの2着。
もう6歳だが、良馬場なら・・・・・・まだまだやれる。いや、やる!
マルゼンスキー、ヒシアマゾン・・・・・・牡馬も牝馬も群を抜くエンジンを搭載した外国産馬。
どんどん輸入された『外車ブーム』。高松宮記念、17頭中11頭の外国産馬で占められた。
外国産馬の好きにはさせない!
燃えるマサラッキ。阪急杯を勝ち重賞2勝目、シルクロードSをシーキングザパールのクビ差2着。
堂々と渡り合える自信はつけた。
5月24日、高松宮記念。
1.ワシントンカラー
2.ビコーペガサス
3.ドージマムテキ
4.ザゴールド
5.シーキングザパール
6.キビダンゴ
7.コクトジュリアン
8.シンコウフォレスト
9.ケイワンバイキング
10.チアズサイレンス
11.スーパーナカヤマ
12.ジェットアラウンド
13.ブラックタイキス 出走取消
14.ヤシマジャパン
15.スギノハヤカゼ
16.エイシンバーリン
17.マサラッキ
1番人気シーキングザパール、2番人気シンコウフォレスト、3番人気スギノハヤカゼ。
4番人気マサラッキ、5番人気エイシンバーリン。
雨中の決戦となった高松宮記念。
暗雲が垂れ込めたのは、1番人気シーキングザパール。
エイシンバーリン、スギノハヤカゼ、日本レコード・コンビにも情け容赦のない雨となるか?
スタート! シンコウフォレスト、スーパーナカヤマ、エイシンバーリン3頭が飛び出した。
雨はイヤだ! でも、絶対譲らない!
決死の覚悟の快速。
エイシンバーリンが外から2頭を振り払って、先頭に立った。
2番手シンコウフォレスト、3番手スーパーナカヤマ。
シーキングザパールは、内4番手につけた。辛い馬場、だが、下げるわけには行かない。
一旦下がれば、ズルズル馬群に呑みこまれる。
キビダンゴ、マサラッキ、馬群が固まった。
中団を行くワシントンカラー。芝・ダート両方の重賞勝ち馬。
この馬場は、待っていた!
中団に食らいつくビコーペガサス。
8歳となったスプリンターズS2着2回、高松宮杯2着馬。
諦め切れない。諦めきれないッ! ひた走る。
後方で喘ぐスギノハヤカゼ。
最後方は、9歳ドージマムテキだった。45戦目、21戦勝ち知らずも、まだ失っていない。
走る心。
雨中のやや重馬場。3ハロン33秒7でぶっ飛ばすエイシンバーリン。
2馬身リードを守って、4コーナーを回った。
2番手をキープするシンコウフォレスト。3番手に上がってきたジェットアラウンド。
4番手、外に持ち出したシーキングザパール。勝てるか!
武豊の手は激しく動いていた。
直線、粘りを見せるエイシンバーリン。衰えない闘志。
外から並びかけようとするシンコウフォレスト。
3番手、シーキングザパール。
内から、泥まみれになった白い帽子が飛んできた。
ワシントンカラーだ。
粘る、粘る、粘るエイシンバーリン。
懸命に差すシンコウフォレスト。
ぬかるんだ芝に脚を取られながらも、喜んだ。
スピードでは負けても、これなら・・・・・・持てるパワーを爆発させた!
ゴール前、ついに抜け出した。
ワシントンカラーは、エイシンバーリンに並ぶのが精一杯だった。
シーキングザパールは伸び切れない。ケイワンバイキングに迫られた。
見果てぬ夢を追ったビコーペガサス、後方一気のドージマムテキが懸命に追い上げた。
1分9秒1、前年に続いて黒一色の勝負服、『シンコウ』が勝った。
あの時、悔し涙に濡れたシンコウフォレスト。
輝く雨粒のシャワーを突っ切った。
1着シンコウフォレスト
2着ワシントンカラー
3着エイシンバーリン
4着シーキングザパール
5着ケイワンバイキング
(つづく)