『3冠』をめざすミホノブルボン陣営。
最も恐れたステイヤー血統ライスシャワー。
スプリングS(1.6秒差)、皐月賞(1.4秒差)、ダービー(0.7秒差)、京都新聞杯(0.2秒差)、対ミホノブルボン4連敗。
ただ、着差は確実に詰めてきた。
『この馬で、あのミホノブルボンに、3冠最後の菊花賞で何とか立ち向かいたい』
手綱を取る的場均にも、しっかりとした野望が湧いてきていたのも事実だった。
ミホノブルボンの『3冠』阻止。
その思いはライスシャワーだけではなかった。
同世代のとてつもない勇者。倒すべき馬、倒さなくてはならない馬。
3000mへの距離不安。弱点は、それ一点。
名手・岡部幸雄が乗るマチカネタンホイザ、ダービー4着。父ノーザンテーストの名において。
37戦25勝、父は地方の雄グレートローマン。その父は長距離系ブレイヴェストローマン。横山典弘が手綱を取るスーパーソブリン。
父はジャパンカップ2着馬アレミロード。ジュピターアイランドとともにミホシンザンを打ち破った。河内洋が御すヤマニンミラクル。
同じ父アレミロード。栗東・橋口弘次郎厩舎のメイキングテシオに乗るのは、関東のベテラン・大崎昭一。
父はダービー馬バンブーアトラス。天才・武豊が乗るのは父・武邦彦厩舎のバンブーゲネシス。
ライスシャワーと同じ父リアルシャダイ。ダイイチジョイフルは距離に活路を拓く。
短距離の血に反逆するミホノブルボン。長距離の血を武器に挑む馬たち。
勝者は1頭。
11月8日、菊花賞。
1.ヤマニンミラクル
2.メイキングテシオ
3.サンキンタツマー
4.メイショウセントロ
5.ワカサファイヤー
6.グラールストーン
7.ミホノブルボン
8.ライスシャワー
9.ランディーバーン
10.マチカネタンホイザ
11.ヘヴンリーヴォイス
12.キョウエイボーガン
13.ヤングライジン
14.バンブーゲネシス
15.セキテイリュウオー
16.スーパーソブリン
17.セントライトシチー
18.ダイイチジョイフル
1番人気ミホノブルボン、2番人気ライスシャワー、3番人気マチカネタンホイザ。
4番人気スーパーソブリン、5番人気ヤマニンミラクル。
単勝1.5倍。圧倒的1番人気、ミホノブルボン。
そこには、多くのファンの『3冠』への思いが込められていた。
観客からは遠い、遠い、3コーナー手前からのスタート。
12万を超える大観衆が、その時を待っている。
逃げ馬ミホノブルボンには、展開面での強敵が存在した。
キョウエイボーガンだ。
神戸新聞杯を逃げ切り勝ち。京都新聞杯でミホノブルボンと初対決。どちらが逃げるか?注目された。
キョウエイボーガン、痛恨の出遅れ。ミホノブルボンが単騎逃げで勝利を収めた。
『菊花賞は何が何でも逃げる』、管理する野村彰彦調教師は宣言した。
鞍上は7年目、若き松永幹夫。
松永は困り果てた。確かにキョウエイボーガンは逃げてこその馬だ。だが、ミホノブルボンと逃げを争っては、両方とも潰れる。
所属厩舎は違うが同じ栗東の先輩騎手。小島貞博の人柄には好意をもっていた松永。
その小島の乗るミホノブルボンの『3冠』の邪魔はしたくない。かといって、『逃げろ』という調教師の要望に逆らえる立場でないことは、松永が一番よく知っていた。
迷いに迷った松永は、レース前に小島にこう言った。
『小島さん、オレぶっ叩いて逃げますから』。
運命のスタートは切られた。
スタート素早かったのは、ミホノブルボンだ。
すぐさま、外からキョウエイボーガンが先頭に立った。
松永幹夫は遮二無二、キョウエイボーガンを押した。
ガンガン行くキョウエイボーガン。2馬身、3馬身、4馬身、5馬身。
アッという間に差を開いて、一人旅、キョウエイボーガンは逃げた。
これだった。
松永幹夫は離して逃げることによって、一人旅の手を打った。
これなら、ミホンブルボンと競ることもない。
ミホノブルボンも一人旅、単騎先行。
『何が何でも逃げろ』、約束は守った。そして、
3冠の邪魔はしない。
2番手、単独の形となったミホノブルボン。
3馬身離れて、3番手メイショウセントロ。
さらに、2馬身離れてマチカネタンホイザ。
さらに3馬身後、ライスシャワーが続いた。
その2馬身後方から、一団の馬群が続いた。
松永の配慮に感謝した小島貞博。
前を行くキョウエイボーガンを気にしないではない。初めて、自分の前を走る馬がいた。
いつになく落ち着かないミホノブルボン。
だが、自滅にはつながらない。
グッと耐えるミホノブルボン。
敵は、3000mを走る自分自身。
間隔を開けた中で、4番手で前を見つめるマチカネタンホイザ・岡部幸雄。
ライスシャワー、鞍上・的場均は最高の状況に胸躍った。
ミホノブルボンの様子が手に取るように、わかる。
離されず、このままをキープ。
1000m、59秒7。決して遅くはないペース。
このまま・・・・・・ミホノブルボンが動けば、即、動く。
3コーナー手前、ミホノブルボンが動いた。
早めスパート。
キョウエイボーガンを捕え、先頭に立ち、4コーナーに向かって、動いた。
4コーナー。先頭に立って迎えたミホノブルボン。
内からマチカネタンホイザ、
外からライスシャワーが迫った。
引きつけるだけ、引きつけて・・・・・・直線ぶっ飛ばしてやる!
それが、ミホノブルボン。
直線、小島貞博は引き離しにかかった。
だが、差は開くどころか、内からマチカネタンホイザ、外からライスシャワー。
2頭が追い上げてきた。
差が開かない。
いつものブルボンの強さが、ない。
前半の落ち着きのなさか?
いつもでないブルボン。
小島は、初めて気づいた。
突き放すはずが、並ばれた。
距離か?
勢いはマチカネタンホイザ、ライスシャワー。
直線半ば。ゴールまで、あとわずか。
がんばれ、ブルボン。
絶望の淵で、小島は懸命に手綱をしごいた。
ミホノブルボンを挟んで、3頭のデッドヒート。
マチカネタンホイザが出たッ。わずか、アタマほど。
ダメだ。でも、がんばれ、がんばれ、ブルボン。
再び、盛り返すミホノブルボン。
その外から、
ライスシャワーが最後の最後に、伸びる態勢。
懸命に脚を動かすミホノブルボン。
でも、空しさが漂った。
もう、伸びる脚が・・・・・・残っていなかった。
グイッと伸びたライスシャワー。
血の掟。長距離の血が、ミホノブルボンを上回った。
1馬身4分の1差。
『3冠』を幻にした末脚。ライスシャワー、ただ1頭の勝利者となった。
菊花賞馬誕生。
敗れたミホノブルボンは、意地で、意地でマチカネタンホイザを抜き返した。
1着ライスシャワー
2着ミホノブルボン
3着マチカネタンホイザ
4着メイキングテシオ
5着ダイイチジョイフル