ジャパンカップを勝って『6冠』となったシンボリルドルフ。

もう、めざすは『世界』しかない。


4歳ダービー後、5歳天皇賞春後、浮上した海外遠征プラン。そのたびに白紙となった。


獲るべき冠が5冠しかなかった時代の『5冠馬』シンザン。そのシンザンに並び、さらに『6冠』。

超えたとは言い切れないが、オーナーの和田共弘氏、管理調教師の野平祐二師の中には、『日本の中ではすべてやり終えた』観があったのは間違いないだろう。

有馬記念を最後に、世界へ飛び出すのはシンボリルドルフにとって必然となった。




シンボリルドルフ最後の国内レースとなる有馬記念。

わずか10頭立てとなった。



シンボリルドルフに勝った馬ギャロップダイナ。ジャパンカップで7着。

有馬記念でも、懸命に走るだけ。ただ、走る以上、胸の奥底にあるのは勝利。



皐月賞6着、ダービー5着、菊花賞3着、天皇賞春4着、天皇賞秋10着、シンボリルドルフとともに走ったニシノライデン。

その激しい気性が災いしたこともあったが、つねに消えることのない闘志をシンボリルドルフに燃やし続けた。炎の馬。



『皇帝』に挑む4歳若駒。

皐月賞6着、ダービー2着、菊花賞2着スダホーク。

皐月賞3着、ダービー7着、菊花賞3着サクラサニーオー。


そして、シンボリルドルフ陣営を意識させた馬、皐月賞・菊花賞2冠馬ミホシンザン。

ダービーを骨折で断念した。『幻の3冠馬』と世間は呼んだ。


3年連続3冠馬誕生が夢じゃなかった、と思わせたシンザン最後の最高傑作。


『いままでにない強い勝ち方をするよう』、野平師はレース前に岡部に指示した。


勝てば有馬記念連続制覇。史上連覇したのは、ただ一頭。シンボリルドルフの母父スピードシンボリのみ。

クラシック3冠、有馬記念、天皇賞春、ジャパンカップ、有馬記念、史上初の『7冠』。

勝だけで、歴史に残す大記録。


だが、完膚なきまでの勝利を願望する野平祐二師。


そこに何があるというのだ?



時代の差ゆえに対象とならないシンザン。

19戦15勝、2着4回。皐月賞、ダービー、菊花賞、天皇賞秋、有馬記念、『5冠』。

当時、牡馬が獲れる『冠』はすべて獲った。負けたのは前哨戦となるレースのみ。

レコード駆けは一度もない。先頭にいるのはゴールの時だけ、ゴールを過ぎると真っ先にスピードを緩める。2着馬につけた最大着差は菊花賞の2馬身2分の1。

強さを見せつけないで、それでいて勝つシンザン。どんな状況でも、大レースでは決して負けない馬。

象徴するのが、最後のレースとなった有馬記念だ。


打倒シンザンに闘志を燃やし続けたのが、『闘将』加賀武見が乗るミハルカスだった。

中山道悪の4コーナー、馬群の大外に出たミハルカスは外ラチ沿いを走った。一見、後ろから来るシンザンを外に振る作戦に見えたが、加賀の目論みはシンザンを馬場の悪い内に押し込めるための大外取りだった。

シンザン・松本義登は、ミハルカスのさらに大外に進路を取った。

直線、外ラチ沿いを走る2頭は、ラチ外に鈴なりになる観衆によってテレビ画面から消えた。

『シンザン見えない、シンザン見えない』の連呼。伝説となった実況中継。


ゴール前、ようやく消えた人垣。『シンザン出た、シンザンだ、シンザン優勝!』。


いつも先頭に立つのはゴール前だけ。どれだけ見る人を不安にさせようと、最後は必ず勝つシンザン。

『最強馬』という表現は当たらない。

シンザン=神賛、その名すら神格化してしまった至宝。



『皇帝』シンボリルドルフが何冠獲ろうとも伝説の名馬『神賛』に及ばないことは、『ミスター競馬』といわれた野平師自身が感じていたことなのかもしれない。


奇しくも、そのシンザンの最高傑作といわれるミホシンザンが相手。


いままでにない強い勝ち方を・・・一度たりとも要求しない言葉だった。





12月22日、有馬記念。

1.ローラーキング
2.ミホシンザン
3.サクラサニーオー
4.ニシノライデン
5.カネクロシオ
6.シンボリルドルフ
7.ハーバークラウン
8.ギャロップダイナ
9.スダホーク
10.ヤマノシラギク


1番人気シンボリルドルフ、2番人気ミホシンザン、3番人気ギャロップダイナ。

4番人気ハーバークラウン、5番人気スダホーク。



単勝1.2倍、打倒シンボリルドルフ。

9頭の一致した思い。


それが、国内最後の戦いをするシンボリルドルフへの礼儀。


カネクロシオが先陣を切った。

2番手に立ったのは、なんとギャロップダイナ。

強きで知られる個性派騎手・根本康広が練りに練った2度目の打倒ルドルフ作戦。


3番手に、これまた差し馬、芦毛の豪脚スダホーク。


密集する後続。

その密集のど真ん中を、シンボリルドルフは行った。


内にニシノライデン、外にヤマノシラギク、後ろにサクラサニーオー、ハーバークラウン。

ミホシンザンは後方2頭目を走った。




2コーナーを回って先頭に立ったギャロップダイナ。

カネクロシオを引き連れて他をドンドンと離しにかかった。


向こう正面では10馬身、後続を離した。


その3番手に上がったのは、『皇帝』。

シンボリルドルフが後続の先頭に立って、2頭を追いかけた。


『かかったわけではない。だが、なぜかこの日のルドルフは積極的に前に行こうとした』

岡部は語る。



1965年、20年前の有馬記念で、『シンザンが外を回れと言った』とコメントした松本義登。


名馬が、自らの意思で勝負に出た一瞬。騎手をリードした。



シンボリルドルフの積極性は、3コーナーでギャロップダイナの外へつけさせた。


どよめく場内。

大歓声と大絶叫の中、必死で先頭を踏ん張るギャロップダイナ!


襲いかかろうとするシンボリルドルフ!



後続から、さらなる大歓声を呼んで、ミホシンザンが大外から上がってきたッ!


サクラサニーオーが続いた。


内から迫るニシノライデン。



4コーナーで先頭に立ったシンボリルドルフ。

直線、一気に突き放しにかかった!



粘るギャロップダイナ。

内を突き抜けようとするニシノライデン。


外から、ミホシンザン。ルドルフの影を追いかけて差し込んできた。


だが、その実体に追いつけない。


2着争いから、抜け出すのが精一杯だった。



4馬身、


圧倒的な差をつけてゴールをめざすシンボリルドルフ。


『皇帝』が見せた国内最後の勝利。



『ミスター競馬』野平祐二が、ただ一度望んだ。


シンボリルドルフの圧倒する強さだった。



1着シンボリルドルフ

2着ミホシンザン

3着ニシノライデン

4着スダホーク

5着ギャロップダイナ


(つづく)