わが世の春。関東の中堅ジョッキー・菅原泰夫に突然訪れた快進撃。

桜花賞・オークスをテスコガビーで獲り、皐月賞を獲ったカブラヤオーでダービーへ。


春クラシック4冠、すべてを獲る。前人未踏の快記録が現実のものとして、迫ってきた。


トライアル・NHK杯をロングファストに6馬身差の圧勝。

新馬戦で2着に敗れ、以降7連勝のカブラヤオー。負けることは考えられない馬となった。


『狂気の逃げ』といわれるハイペースで逃げ、ついて来た馬は潰される。



出走全馬を引き連れて先頭を走る逃げ馬。


それは、一歩間違えば壊滅の走り。



カブラヤオーが自らのハイペースに沈んだら・・・虎視眈々と狙う馬たち。

関西からやってきた皐月賞2着ロングホーク、3着エリモジョージ、4着ロングフアスト。

NHK杯3着スリーフラム。


関東の気鋭イシノマサル、ハクチカツ、ハーバーヤング。

3月にはまだ3戦未勝利も、その後、4戦3勝。大舞台に乗り込んできたイシノマサル。



ホースマンの憧れ、ダービー。


『打倒カブラヤオー』、臆することのない27頭の馬たちが集結した。



東京競馬場フルゲート28頭。関東馬17頭、関西馬11頭。

壮絶な戦いが始まる。




5月25日、ダービー。

1.ホシバージ
2.トップジロー
3.ハーバーシンセイ
4.オンワードプリンス
5.ハードラーク
6.イシノマサル
7.スリーフラム
8.ロングフアスト
9.カネイワキ
10.ノワキタカ
11.オリオンタイガー
12.カブラヤオー
13.タマモヒカリ
14.ハクチカツ
15.オウプレス
16.ロングホーク
17.ファインバリモス
18.ミヤコメルド
19.エリモジョージ
20.ハクサンチトセ
21.フサトロキノー
22.ダイフクミツ
23.イシノアラシ
24.タイフウオー
25.テキサスシチー
26.ハーバーヤング
27.ミョウジンサクラ
28.ナスノスピード


1番人気カブラヤオー、2番人気ロングホーク、3番人気ロングフアスト。

4番人気エリモジョージ、5番人気スリーフラム。




一斉にスタートした。

馬場いっぱいに広がった28頭が1コーナーをめがけて殺到する。


『ダービー、運がいい馬が勝つ』、そういわれた格言。

それは、この頭数にあるようだ。

ダービーポジションといわれた1コーナー10番手前後。運がなければ、獲れない。



運など要らない。

斬り裂いて先頭に躍り出るのがカブラヤオーだった。


鞍上・菅原は手綱を押して、押して先頭に立った。

逃げなければ我慢ならない激しい気性ではないカブラヤオー。


逆だ。おとなしい、臆病な性格のカブラヤオー。

臆病すぎて馬ごみに入れられない。

幼少時に他馬に蹴られて大ケガを負ったトラウマ。



苦肉の策の逃げ。


決して悟られてはならない。


一瞬でも、馬たちの中に身を置けない。


最初から最後まで、逃げることしかないカブラヤオー。


1コーナーを27頭を引き離して逃げるのは、必然だった。




向う正面、やはり来た。1枠2番のトップジローが並びかけようとしてきた。

自ずと上がるペース。

すぐさま2馬身突き放したカブラヤオー。


7馬身あとに、馬群が続いた。

オンワードプリンスが行き、外々を通ってロングホークが7,8番手。

内々、10番手ダービーポジションを行くロングフアスト。半兄ロングエースが獲ったダービー。

勝ちたいッ! 思いは凄まじかった。その思いを内に込め、じっと待った。


勝負は、直線!



3コーナー手前で早くも脱落したトップジロー。

すかさず後続が追い上げてくる。


カブラヤオーに迫った。


菅原はまたも手綱を押した。この馬群に並ばせるわけにはいかない。


差を開いた。



息つく間もない辛い逃げ。


でも、逃げるしかない。



がんばれッ!




先頭のまま、直線に入ってきたカブラヤオー。


ハクチカツが、ロングホークが、迫った。


1馬身、すぐ後ろだ。



内から伸びてきたのは、ハーバーヤング。


そして、ロングフアスト。



最後の坂を駆け上がった。


もっとも辛い。ゴールまで長い。



力を振り絞るカブラヤオー。



近寄られたら突き放す。


驚異だ。


カブラヤオーはゴール前でも逃げ脚を点火させた。


臆病なんかじゃない。逃げることに、強靭な意志をもって貫いた。



1度は迫ったハクチカツを突き放し、差し込んでくるロングフアストを1馬身4分の1、さらにハーバーヤングを1馬身半、抑え込んだ。



皐月賞・ダービー、2冠馬カブラヤオーの誕生だ。



1着カブラヤオー

2着ロングフアスト

3着ハーバーヤング

4着ハクチカツ

5着イシノアラシ



(つづく)