私は何のために走るのだろうか?
疑問の中で、馬は走る。
速く、強く走るものだけを良血とするサラブレッドの世界。
血の淘汰は繰り返され、走らない馬は排除される。
すべては、人間のエゴ。
悲しいかな、淘汰の歴史は『走る』ことをサラブレッドの本能としてしまった。
走ることにだけに命を賭け、ひたすら走る。
血の淘汰。
年間6,7千頭、生まれてくるサラブレッド。
血を残せる馬は何頭いるのか?
すべては、己が走りにかかっている。
1984年、3月30日。北海道静内町・中田繁次牧場。
小さな牧場で生まれたユーワジェームス。
父モガミ、母スイートベルン。母の父パーソロン。
決して、良血ではない。
良血必ずしも名馬ならず。逆もまた、真。
血への挑戦。排除されるわけにはいかぬ。血への反逆もサラブレッドの本能。
1986年、12月デビューは17頭立て9着。
競走馬として走ることにすべてを懸ける、その出発点。
他馬の気迫に押され続けたユーワジェームス。
負けてつかんだ闘争心。
2戦目の新馬戦を勝利。
1987年。
1月、若竹賞(400万下)、リワードタイラントの2着。
ジュニアカップ(オープン)、トチノルーラーの2着。
3月、水仙賞(400万下)。サンオブダンに半馬身競り勝ち、2勝目を上げた。
4月19日。皐月賞。
4歳(現表記3歳)クラシックに挑んだ。
マティリアル、サクラスターオー、バナレット、ホクトヘリオス、メリーナイス、ゴールドシチー・・・世代の有力馬に混ざって、堂々と走った。
サクラスターオーの9着。
血の反逆はならなかった。
何のために走る?
問う心。
いざレースでは、すべてが飛び・・・ただゴールめざして体が動く。
結果に打ちひしがれても、レースになれば、ただ、ただ、体が動く。
5月、青葉賞4着。
6月、ニュージーランドトロフィー4歳S(G2)。
4番人気、好位から駆け抜け、2番人気ニシノミラー、1番人気ハセベルテックスとのクビ、アタマの接戦を制した。
重賞初制覇。
自信めいたものが湧いてきた。
やれるんだッ! がんばれば、なんとかなるッ。
何のために走るんだろう?
しばらくは、置いておこう。
走ることに楽しさがあった。
ユーワジェームス、
若駒の目に、青い空は広がっていた。
(つづく)