『愛しき 馬っこ』26 フィフスペトル
新馬、重賞(函館2歳S)と連勝。
京王杯2歳S、2着。朝日杯FS、2着。
素晴らしい戦績で終えた2歳。
3歳クラシックへ夢は大きく膨らんだフィフスペトル。
父キングカメハメハ、母ライラックレーン。母の父バーリ。
フィフスペトル=5枚目の花びら。
4枚の花びらを持つライラック。
稀に5枚持つものがあり、ハッピーライラックといわれ、
幸運をもたらすとされている。
キングカメハメハ初年度産駒フィフスペトル。
キングカメハメハ産駒メイクデビュー初勝利、重賞初制覇。
まさにハッピーライラックか?
2009年。3歳を迎えたフィフスペトル。
スプリングS3着、皐月賞7着、NHKマイルカップ5着、ダービー11着、スワンS8着、マイルチャンピオンS8着。
開きかけた蕾は落ち、朽ち果てた。
2009ファイナルSをエーシンフォワードの2着。
2010年、東風Sを1年7か月ぶりに勝利。
ダービー卿チャレンジを4着。
再び、開きかけた蕾。
骨折が判明、蕾は蕾のままで、凍結された。
長き闘い、それは明りの灯らない闇との闘いだった。
脚に2本のボルトをはめ込み、
いつ復帰できるかもわからぬ、闇と闘った。
2011年、3月。陽光のなか、フィフスペトルは戻ってきた。
およそ1年ぶり、六甲S、0.3秒差5着。
5月、京王杯スプリングC、後方から差して0.4秒差6着。
6月、夏至S。自己初の逃げ切りで勝利を得た。
三度目の蕾。
今度こそ、今度こそ花開いて見せよう。
5枚目の花びら、
ハッピーライラック!
季節は問わぬ、乱れ咲き。
待つ父のために。
待つ母のために。
待つ人のために。
そして、
自分のために。
そのために耐えた、蕾。
もう、いやだ、朽ち果てることは、
ない。
(愛しき 馬っこ 2011 9.9)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2011年、9月11日。京王杯オータムハンデ。
フィフスペトルは6番手から、直線鮮やかに抜け出し、1着で駆け抜けた。
函館2歳S以来の、3年ぶりの重賞制覇。
『愛しき 馬っこ』フィフスペトル、
しあわせを運んできた。
ゴールの瞬間、
あふれる涙、喜びを爆発させたファンも数多い。
2011年、11月20日。マイルチャンピオンS。
11番人気のフィフスペトル。
逃げ馬シルポートが先頭を行く。
ライブコンサートが行き、2番人気リディルが続く。
並んでいつもより早めに行くフィフスペトル。
鞍上・横山典弘は確かな手応えをつかんでいた。
背中から伝わる闘志。
自分のために、みんなのために、見続けていてくれるファンのために・・・。
ファイフスペトルは、誓った。
勝つんだッ!
直線を向いた時、シルポートの脚色はすでに怪しかった。
ライブコンサートもリディルも、伸びる気配はないッ。
先頭に立った。
伸びてきたのは5番手につけていたエイシンアポロン。
前日の雨でやや緩んだ馬場。しっかりとターフをつかみ辛い。
そんなこと、言ってられない。
行くんだ! ゴールを突き抜けるんだッ!
動けッ! 私の脚。
渾身の願い。フィフスペトルとエイシンアポロンは馬体を接したままゴールへ飛び込んだ。
クビ差、負けた。
勝ったのはエイシアポロン。
その後も重賞、G1を走り続けたフィフスペトル。
6着、7着、7着、11着、13着、9着、8着、5着、17着。
6歳になり、7歳になり、パフォーマンスにやや翳りが見えた。
それでも懸命に走るフィフスペトル。
もう、5枚目の花びらは立派に咲かせた。
君の走る姿が見られるだけで、しあわせなんだよ。
もう、勝ち負けじゃない。君の走る姿が、ファンの小さな、小さな、大切なしあわせ。
2013年、6月、安田記念。
君の元気な走りをファンは待っていた。
なのに、
5月30日、美浦トレーニングセンター。
ウッドチップコースの直線で、フィフスペトルの脚が乱れた。
左第1趾骨(しこつ)粉砕骨折、発症。予後不良、安楽死処分。
前日に、栗東でジョワドヴィーヴルが調教中の骨折で予後不良となったばかり。
悲しみよ、なぜ続くのか!
競馬の神よ、
もし、存在するなら・・・私はあなたを許さないッ。
ただでさえ、哀しい運命(さだめ)のサラブレッド。
それでも健気に生きようとする馬を、いたずらに天に召し上げるのか。
競走馬は、ガラスの脚。
どうか、どうか、
見守ってあげてください!
フィフスペトルよ、
やすらかに。
合掌。