アメリカからやって来た。


サウスヴィグラス。


1200m限定ともいえる、ダートの快速馬だった。




生まれもっての脚元の弱さ。

使い込めない。


幅広い距離をこなさないとダートでは活躍の場が、少ない。



本格的にオープンへ上がったのは5歳2月、遅かった。


Vigorous=成長力ある。

進化し続ける馬、サウスヴィグラス。


いや、進化し続けなければ居場所がない。それが、サラブレッド。



2002年3月から2003年6月まで、1年3カ月の間に重賞6連勝。

1400mでも勝った。

骨折休養を挟み、脚元の痛みにも耐えた。



まだない、『冠』。G1制覇。

ダート1200m唯一のG1・JBCスプリント(正確には1190m)。


7歳11月。ラストランとしてサウスヴィグラスは登場してきた。




2003年、11月3日。第3回JBCスプリント、大井競馬場、ダート1190m。


強敵は、前走・東京盃でサウスヴィグラスに勝っている大井の快速ハタノアドニス。


第4回の覇者となる4歳若きスプリント、マイネルセレクト。

第2回覇者スターリングローズ、第1回覇者ノボジャック。


過去の、未来の覇者が勢ぞろいした。



果敢に逃げたサウスヴィグラス。

2度目の骨折明けの前走・東京盃ではハタノアドニスに捕まり、ちぎられた。


このラストランで勝たなくては・・・強さを見せつけなければ・・・種牡馬としての、明日がないッ。


見せねば、最高のパフォーマンス。



栗毛、額に白い星ひとつ。

くっきり輝いた。



直線に入っても衰えない逃げ脚。

スターリングローズもハタノアドニスも追いつけない。


猛然と迫ったのは、若きマイネルセレクトだッ!

グイグイ伸びて、馬体を合わせてきた。


うぬぬぬぬッ。

普段からおとなしい、闘争心を表に出さないサウスヴィグラスが見せた、怒りの顔。



重なったままに、2頭はゴールを駆け抜けた。



ハナ差。



サウスヴィグラスの勝利。




最後の最後に、またひとつ進化を見せたサウスヴィグラス。

『冠』ひとつ、種牡馬生活に入った。


ダートで初年度から産駒が活躍。

スパロービート、トーホウドルチェ、地方競馬で重賞制覇。

中央でもナムラタイタンが活躍。

2009年にはラブミーチャンが全日本2歳優駿を制覇し、2歳馬として史上初のNARグランプリ・地方競馬年度代表馬に輝いた。

2012年には、ラブミーチャンが再び年度代表馬に選出。サウスヴィグラス自身はNARリーディングサイアーとなり、地方チャンピオンサイアーとなった。



いま、17歳、サウスヴィグラス。

手間のかからない、落ち着いた馬。


その馬体は、いまも筋骨隆々としてある。

対照に、愛らしい澄んだつぶらな瞳。


闘争心の欠片も表情に見せない、ミステリアスな雰囲気をもつサウスヴィグラス。




種牡馬になっても、



続ける進化。




いまは亡き父エンドスィープ。


スィープトウショウ、ラインクラフト、アドマイヤムーン・・・芝で活躍した。




留まることのない進化は・・・いずれ、



芝の大物を出すかもしれない。




現在、年間200頭を超す産駒を輩出。




進化の遺伝子は、



限りない可能性を感じさせる。