5歳となったルーラーシップ。


次々と崩壊していく最強世代、そのなかで課せられた十字架の重みは、


さらに増した。



超良血としてこのままでは終われない。



世代の誇りを守るため。





2012年、1月。アメリカジョッキーC。

ナカヤマナイト、トーセンレーヴ、4歳の精鋭を3馬身ちぎった。



3月、日経賞。

伏兵中の伏兵ネコパンチの思いもよらぬ大逃げにあった。

見事な逃げ切りを許し、4歳ウインバリアシオンにクビ差、差された。



ルーラーシップは香港に飛んだ。


4月29日、クイーンエリザベスカップ(G1)。

内3番手ににつけたルーラーシップは直線、なんなく先頭に立つと2着馬サムザップに3馬身4分の3差をつけ圧勝。

G1初制覇を海外・香港で成し遂げた。


好位から鋭い脚で抜け出す。最も強いルーラーシップをようやく見せた。



6月24日、宝塚記念。

海外遠征帰りに休む間もなく登場したルーラーシップ。


注目はオルフェーヴル。阪神大賞典で3コーナー逸走、驚異の追い上げ2着。良くも悪くも怪物ぶりを見せつけ、天皇賞春は11着惨敗。

気性難が浮き彫りとなり、凱旋門賞挑戦の試金石となるレース。


オルフェーヴルは気性難も見せず、懸念を吹き飛ばす豪脚を見せつけた。

ただ1頭、オルフェーヴルの相手となるはずのルーラーシップも、直線差し切られ2馬身差の2着に甘んじた。




強いオルフェーヴル。

2度敗れたルーラーシップ。


その強さに脱帽はしない。


必ず、勝つ。

その思いを胸に放牧に出た。



休養。



疲れをとり、英気を養う。

あふれんばかりのエネルギーは、発散の秋を待った。




10月28日、天皇賞秋。

休み明けとはいえ態勢万全。

支配者=ルーラーシップの真価を見せる時が来た。


岩田康誠、横山典弘、四位洋文、C.ルメール、U.リスポリ、C.スミヨン、福永祐一、C.ウイリアムズ、乗った騎手が口々に言う「凄い乗り味」。


騎手が替ろうと魅せる素質に変わりはない。


I.メンディザバルを背に盾獲りに臨んだ。


スタート。なんと、出遅れたルーラーシップ。


直線、勢いよく抜け出しかけた3歳フェノーメノ。

許さじと、内から凄まじい勢いで伸びてきたのが、同じ最強世代の生き残りエイシンフラッシュ。


ルーラーシップは大外、15番手からゴボウ抜きを開始した。

3番手を走るダークシャドウを捕らえたところがゴールだった。


ダービー以来の勝利を飾ったエイシンフラッシュ、2着フェノーメノに届かず3着のルーラーシップ。



11月25日、ジャパンカップ。

凱旋門賞無念の2着、オルフェーヴルが帰ってきた。

牝馬3冠を制したジェンティルドンナ。


申し分なさすぎる相手、燃えるルーラーシップ。

燃えすぎたか?


またも出遅れた。


4コーナーを回って15番手。


直線、熾烈なぶつかり合い、火花を散らすジェンティルドンナとオルフェーヴル。

大興奮のデッドヒートを前に見て、またも3着が精一杯だったルーラーシップ。


出遅れさえなければ・・・。


角居厩舎、鞍上・ウイリアムズ、懸命なゲート練習が行われた。


有馬記念こそ、決意固く臨んだ。




12月23日、有馬記念。


皐月賞・菊花賞2冠の3歳馬ゴールドシップ、1番人気・単勝2.7倍。

天皇賞秋を制して崩れかけた世代の誇りを守ったエイシンフラッシュ、3番人気・単勝10.0倍。


2番人気となったルーラーシップ、単勝3.7倍。


完全な2強。


出遅れさえなければ・・・誰もが思うことのようだった。



ゲートが開く瞬間、静まり返った場内。


開いた瞬間、悲鳴と落胆の声とが混ざり合った大歓声。


他の馬がゲートを飛び出した中、ただ1頭、ゲート内で立ち上がるルーラーシップがいた。



完全という言葉が合うかどうか? はともかく、陣営がやるだけのことはやり、鞍上・ウイリアムズが細心の注意を払い、挙句にしでかした大出遅れ。

10馬身以上の背負ってしまったハンデ。

あまりにも大きい。


取り戻そうと、すぐに後方集団に取りついたルーラーシップ。

最後方につけていたゴールドシップに目もくれず、さらに前へ。


落ち着け、落ち着け、敵は後ろで余裕の待機。


平静を取り戻した。


だが、使った脚の負担は大きかった。


3コーナー、ゴールドシップが上がって行った時、付いていけないルーラーシップ。


それでも懸命に繰り出した脚。


動けぇーッ、駆けろッ、我が脚。



直線、遠く及ばないゴールドシップ。

2着オーシャンブルーさえも・・・。

内で粘るエイシンフラッシュをとらえるのがやっとだった、3着。




出遅れ、出遅れ、大きく出遅れ、3着、3着、3着。


ルーラーシップに生まれた課題。

同期ペルーサが陥った。

矯正された。

直るとともに、心崩れたペルーサ。



「いじめたくない。価値の高い血統を大切にしたい」 角居調教師は引退を決断した。



まだまだ走れる。


支配者=ルーラーシップ。


誇りを失わぬ、走りを見たい。




だが、あえて仔に託そう。




父キングカメハメハよりも、母エアグルーヴよりも、


『超良血』ルーラーシップよりも、



気高い仔を送り出す。





その時を、



みんな、待っている。





偉大なる血の継承者、ルーラーシップ。



夢の続きは、始まった。