サンデーサイレンスX母父ノーザンテースト。

絵に描いたような良血血統。



当たり前のように活躍が期待される。



当たり前の期待の高さ。



上げられたハードルの高さに悩み続けた馬もいる。



G1仕様の血の配合なのに、サンデー・テーストではG1は獲れない。

定番のように言われだした代表格が、『ばらの騎士』ローゼンカバリーだった。

父サンデーサイレンス、母ダイナフェアリー。母の父ノーザンテースト。


1993年、6月1日。北海道白老町・社台ファーム白老で生まれたローゼンカバリー。

サンデーサイレンスの第2世代。母ダイナフェアリーは3冠牝馬メジロラモーヌ、ダイナアクトレスと同期、オールカマーなど重賞5勝。全兄に青葉賞勝ちのサマーサスピションがいる。





1996年、1月。東京・4歳(現表記3歳)新馬戦。

同じサンデー産駒『サクラ』の良血サクラケイザンオーとマッチレース。半馬身差し切った。


デビュー勝ちを納め、前途洋々。


まだまだ遊びながら走っている。

デビューで手綱を取った武豊は伸び行く可能性を示唆した。



つばき賞(500万下)2着、水仙賞(500万下)1着。

皐月賞は間に合わなかったが、ダービーこそ・・・青葉賞(G3)に出走したが4着。


ダービーに出れず、駒草賞(900万下)5着。



遊びながら走っているワケではないローゼンカバリー。

競走馬としては、もっと深刻だったかもしれない。


3戦目から7戦手綱を取った柴田善臣はローゼンカバリーにブリンカー着用を提案した。

卓越した走力もあるが、気性の荒さでも評判のサンデーサイレンス産駒。


だが、ローゼンカバリーは違った。


厩舎では暴れん坊で厩務員泣かせ。後ろ脚で立ち上がり威嚇するなど、ごく日常の出来事。

パドックでは馬っ気を出すなどやんちゃ坊主そのままだったが、レースが始まると一変した。


1頭になると寂しがって鳴き、馬が横に来るとよ仲良く並走を決め、追い抜いて行く馬がいると嬉しがって耳をパタパタさせ、後を付いて行ってしまう。

レース展開など、まったく関係ない走り。最もやっかいなのは、闘争心の欠如だった。



黄色と黒の縦縞、社台の勝負服そのままの大きく深いブリンカーをつけることとなったローゼンカバリー。

しゃくなげS(900万下)を勝利。

菊花賞を睨んでセントライト記念に出走。


1番人気に皐月賞馬イシノサンデー、3番人気に新馬戦でマッチレースを演じたサクラケイザンオー。

2番人気で臨んだローゼンカバリーは2番手から抜け出し、サクラケイザンオーに3馬身の差をつけて重賞初制覇を飾った。




11月、菊花賞。

はじめてのクラシック。


ダンスインザダーク、フサイチコンコルド、ロイヤルタッチ、ミナモトマリノス、カシマドリーム、サクラケイザンオー・・・。

ブリンカー効果で、ある程度レースに集中できるようになったローゼンカバリーではあったが、出走する年代トップホースの面々に舞い上がったか、はしゃぎすぎた。


ゲートを出るなり、ローゼンカバリーはハナを切った。

直線まで誰にも先頭を譲らず、見事に失速、ダンスインザダークから1.4秒離された11着だった。




古馬になって、徐々に落ち着きを見せたローゼンカバリー。

トレードマークともなった大きくド派手なブリンカーも外され、本格化を見せて行った。


5歳時に日経賞(G2)、7歳時に目黒記念(G2)を制覇。

G1に10回挑戦。4度掲示板に載り、98年天皇賞春では3着。


一流馬としての存在感は見せつけた。


だが、勝てなかったG1。



若い時は馬っ気を出していたパドックでも、ドッシリと落ち着いて歩くようになった。

ドッシリしすぎてローゼンカバリーの前はガラ空き。

後ろに大渋滞が起こるほどに・・・。


それは牛歩に近く、それがまた、ローゼンカバリーといわれるまでになった。


レースではひたすら地を睨む。首を低く、低く下げ、ひた走る。

その走る姿は、遠目でもすぐにローゼンカバリーとわかる独特の走り。



やんちゃな甘えん坊は大きく変わった。



ただ、



変わらなかった闘争心の無さ。




ローゼンカバリー、




ただ走ることが好きだった、馬かもしれない。




そこに勝利も敗北もなかった。




いつも、




馬たちと、




ともに走るのが、好きだったのかも・・・。






4歳1月から7歳12月まで、故障なく走り続けた。

33戦7勝、2着2回、3着5回。


良血。血のハードルもなんなく突破した。

勝負にこだわらず、なぎ倒していった馬。




いま、フランスで種牡馬生活を送る。



寂しがっているかもしれない。



いや、



フランスの馬たちと、のんびり過ごしているだろう。



産駒の勝ち負けにもこだわらない。





好きな馬たちと、




ともにいれば、しあわせなのかも。