日本で7戦6勝、2着1回。サンクルー大賞典(G1)1着、凱旋門賞(G1)2着、世界を舞台に走り回ったエルコンドルパサー、第3回優勝馬。

ダート1600m、1分33秒3。桁外れのダート王クロフネ、第6回優勝馬。

NHKマイル→ダービー、変則2冠を形作ったキングカメハメハ、第9回優勝馬。

桜花賞→NHKマイル、牝馬変則2冠馬ラインクラフト、第10回優勝馬。

キングカメハメハをなぞった変則2冠の英雄ディープスカイ、第13回優勝馬。

1分31秒4、驚異の日本レコードで他馬をなぎ倒したダノンシャンティ、第15回優勝馬。

皐月賞3着、NHKマイル3着、悔しさの後ダービーを制したタニノギムレット。



16年、少ない歴史の中で数多くの名馬を輩出したNHKマイルカップ、その軌跡のなかで、

とんでもない奇跡が起こった。



2007年、5月6日。第12回NHKマイルカップ。



精鋭18頭。

1番人気は最強1勝馬、ローレルゲレイロ。朝日杯FS2着、函館2歳S2着、デイリー杯2歳S2着、アーリントンC2着。

2番人気オースミダイドウ。新馬から3連勝、朝日杯FS3着。

3番人気アサクサキングス。きさらぎ賞勝ち、皐月賞7着。



7枠14番に入ったピンクカメオ、18頭立て17番人気。

その存在は希薄そのものだった。


父フレンチデピュティ、母シルバーレーン。母の父シルバーホーク。

父フレンチデピュティはクロフネの活躍で日本に輸入された種牡馬。

母シルバーレーンはアメリカ産。全弟にジャパンカップに出走した快速ホークスターがいる。

ピンクカメオの半兄にはスプリンターズS、安田記念を制したブラックホーク。


アメリカ血統を散りばめられた良血だ。




2006年、新馬戦を1番人気で勝ち、マリーゴールド賞2着、くるみ賞勝利。

2007年1月には菜の花賞勝利と、その良血ぶりを見せていたが、

2歳時に挑戦したG1・阪神ジュベナイルFは8着。

3歳牝馬の祭典・桜花賞では14着。


G1レースでは、まったく歯が立たなかった。

クロフネ、キングカメハメハでNHKマイルカップを2度制していた馬主の金子真人氏が「縁起のいいレースだから」出走を求めた。


ただそれだけ? とも思える理由でピンクカメオは3歳マイル王者決定戦に、牝馬の身で参戦した。


1番人気ローレルゲレイロの単勝が5.5倍。数字から見てもわかるように『混戦』のひと言の、マイル王者決定戦ではあった。が、ピンクカメオに出番があることを信じる人は少なかった。


レースはマイネルレーニアの逃げ、オースミダイドウ、イクスキューズの先行で始まった。

その後ろにつけた1番人気、ローレルゲレイロ。


アサクサキングスがそれをマークし、淡々とした平均ペース。


混戦の中でもレースはスムーズに進み波乱の要素はなかった。


まったく注目されずに14番手で4コーナーを回るピンクカメオ。

そのすぐ横に、18番枠・18番人気ムラマサノヨートーがいた。


ムラマサノヨートー、8戦、2勝以外はオール着外。抽選突破で出走。

ドンジリ人気も致し方なしか?


妖刀『村正』。戦国時代から徳川家に数々の禍をもたらした『村正』の銘の刀。

忌み嫌われ、やがて『妖刀』と呼ばれるようになり、一度、鞘から抜かれると血を見ずには納まらないとまで言われた、伝説の名刀。


ローレルゲレイロが左右の手応えを確かめ、じんわりと先頭に立ちかけた、その時。


やおら、ムラマサノヨートー鞍上・小林淳一はムチに力を込めたッ。

かつてない手応えに痺れて、夢中になった。



妖刀『村正』は鞘から、その刃を晒し出したか?

鋭く一閃した。



その妖しき光りに血塗られるどころか、弾けたのがピンクカメオだった。


ピンクの烏帽子ムラマサノヨートーを従えて、外から一気に馬群を蹴散らせた。


ミニバラ『ピンクカメオ』、その愛らしさを捨て鬼花となった。


先頭を行くローレルゲレイロ、誇り高き戦士は怯えすら感じた。



ゴール前、粘るローレルゲレイロ!

追い抜くピンクカメオ!

迫るムラマサノヨートー!



予測もつかない光景に、大観衆は、固まった。



1着ピンクカメオ17番人気、2着ローレルゲレイロ1番人気、3着ムラマサノヨートー18番人気。


3連単、973万9870円。


途方もない奇跡は起きた。




とんでもない記録を残しG1馬となったピンクカメオ。


以後13戦、1度も勝つことなく競走生活を終えた。


大レースを強い馬が負けることはあっても、弱い馬が勝つことはない。


勝ったピンクカメオ、強い馬だった。


以後、勝てなかったことは、妖刀『村正』の妖しき光りのせいか?




ムラマサノヨートーは引き抜いた妖しき光を、鞘に納めることができず、彷徨い走った。

時にその切れ味を見せるも、妖しき光りを2度と一閃することなく、今年1月、登録抹消となった。


茨城で乗馬になるという。その妖刀は鞘に納めて。




ピンクカメオは繁殖牝馬として、2011年、ディープインパクトの牝馬を産んだ。


ミニバラ『ピンクカメオ』花言葉=誰からも愛される。




母となり、




仔を愛しみ、




青い空を見続けている。





NHKマイルカップの姿は、




ただ、なつかしい思い出として、




胸にしまい込み。