つねに王道を走り続けることの難しさ。


頂点をめざして。



挫折を繰り返しても、心折れない。あくなき挑戦。


頑強な心、頑強な身体、あればこそ挑み続けられる。



それも勇者の証し。



1996年、4月4日。北海道門別町(現日高町)佐々木牧場に生まれたナリタトップロード。

父サッカーボーイ、母フローラルマジック。母の父アファームド。


父サッカーボーイ自身はマイル・中距離で強烈な切れ味を見せたが、元をたどればサンクタス、ファイントップと長距離の血をもつ。


1998年、栗東・沖芳夫厩舎に入厩。当時、沖厩舎の所属騎手として若手の渡辺薫彦がいた。

1994年にデビューしてまだ58勝しか上げれていない騎手ではあったが、沖師にとってはどうしても一人前にしたい騎手だった。

いつも厩舎のスタッフと一緒に、泥にまみれて仕事をする渡辺薫彦。

沖師だけでなく、それは厩舎全員に一致する思いだった。

沖師はナリタトップロードの手綱を渡辺に任せることを決めた。


騎手が馬を育てる、半面、馬に教えられて騎手は成長する、ともいわれる。

ナリタトップロードと渡辺薫彦、お互いが絆で結ばれ、ともに成長して行く始まりだった。



1998年、12月。新馬戦デビューは1番人気で2着。続く2戦目で勝利。


1999年、1月、福寿草特別3着のあと、ナリタトップロードの名を世間に轟かせたのは、きさらぎ賞だった。

1番人気は朝日杯2着馬、武豊が手綱を握るエイシンキャメロン。

直線、エイシンキャメロンとデッドヒートを演じたナリタトップロード。譲らない、トップは譲られない。渡辺の思いは熱かった。ともに重賞初制覇を・・・。

渡辺の渾身のムチに応えたナリタトップロードがクビ差、エイシンキャメロンを制した。



ナリタトップロードをトップホースとして揺るぎないものとしたのが、弥生賞だった。



1番人気は桜花賞・オークスを制した名牝ベガの仔、アドマイヤベガ。

新馬を1位入線4着降着のあと500万下のエリカ賞で初勝利、という離れ技をやってのけ、ラジオたんぱ杯を制した逸材。

鞍上は武豊。数多い乗り馬の中で武豊がこの年、クラシックを戦うパートナーとして決めた馬。


この馬に勝てば、クラシックが見えてくる。

「クラシックを戦うには、渡辺では心もとない」

雑音も聞こえ始めた。


トップロードにとっても、渡辺にとっても、試金石となる一戦。


大飛びで、息の長い末脚が特徴のナリタトップロード。瞬発力勝負では、アドマイヤベガに勝てない。

中団前につけたナリタトップロードは、3コーナーから前との差を詰めはじめ、直線、先頭に立って突き放した。

後方から一気に差を詰めたアドマイヤベガが迫ってきた時は、すでにゴールだった。

1馬身の差をつけて、ナリタトップロードは完勝した。



4月、皐月賞。

ナリタトップロードの状態は最高に近かった。だが、2番人気。

1番人気はアドマイヤベガ。弥生賞で下したアドマイヤベガが、直前の熱発で出走さえも危ぶまれたアドマイヤベガが、ファンの一番の信頼を得たワケだ。

名牝ベガにサンデーサイレンスの超良血、片や米輸入繁殖牝馬にマイラー色の濃いサッカーボーイ。

日本を代表する天才ジョッキー・武豊、やっと重賞を勝ったばかりの無名・渡辺薫彦。


弥生賞の事実は、ファンにとって幻だったのかもしれない。


そして、ファンも、渡辺も、見落としていたのが、毎日杯を制し200万円の追加登録料を払って出走してきたテイエムオペラオーの存在だった。


良馬場発表だが、当日の雨でぬかるんだ中山の馬場。

道悪は決して得意とはいえないナリタトップロード。


思わぬ苦戦を強いられた。


弥生賞の稍重馬場をこなしたことに過信した渡辺は内に進路を取り、ナリタトップロードは荒れた馬場に脚を取られ、あえいだ。

体調不良のアドマイヤベガをマークするというミスまで犯し、オースミブライトに早めに抜け出されてしまった。

直線、外に出してようやく追い上げ始めたナリタトップロード。


馬群に沈むアドマイヤベガを尻目に、オースミブライトに迫った。

あと、わずか。並ぼうとするところに、外からもう1頭、猛然と迫る影があった。


トップロードと同じ栗色の影。

テイエムオペラオーだった。


3頭がもつれてゴールに雪崩れ込んだように見えたが、オースミブライトの蛯名正義も、トップロードの渡辺も、ハッキリわかっていた。

クビ差、抜けていたのは和田竜二が追うテイエムオペラオーだった。


ナリタトップロードは、オースミブライトをハナ差とらえきれずに3着。


渡辺は、トップロードの敗戦を糧に、騎手として大きな成長の課題をもらうハメとなった。



次こそは、必ずトップロードを勝たせるッ!


いつも柔和だった、人の良さが取柄の男に、勝負師としての目の輝きが宿った瞬間だった。



沖師も思いは同じ。ダービーこそは・・・。





そこには、熾烈な戦いが待ち受けている。



(つづく)