アメリカ海軍の戦闘攻撃機の愛称『スーパーホーネット』。

その高性能マシンを名にもつスーパーホーネット。

時にはとてつもない敵をも撃ち落とした。


父ロドリコデトリアーノ、母ユウサンポリッシュ。母の父エルセニョール。

サンデー全盛のなかで、父系・母系ともにサンデーサイレンスの名を見ない。面白いのは母の父がエルセニョールで、父の父がエルグランセニョール。似通った名であるが、共通点はない。

エルセニョールは競走成績、血統的にも無名に近いが、エルグランセニョールは大種牡馬ノーザンダンサーの直仔で、近年、欧州の大種牡馬といわれるサドラーズウェルズとは同期、同厩舎のライバルであり、競走成績ではサドラーズウェルズを上回っていた。8戦7勝、G1・3勝。


優秀なサイアーライン(父系)をもつが、母系は無名。

さほど期待もされなかったが、強烈な末脚を武器に自らの性能をアピールしていった。


2005年、新馬戦デビューこそ9番人気4着だったが、続く未勝利勝ちのあと、デイリー杯2歳Sではマルカシェンクの3着。


くるみ賞1着後に、朝日杯FS芝1600mを最速の上り34秒0で追い込み、フサイチリシャールのクビ差、2着。


2歳にして、G1に手が届きかけた。



2006年、3歳クラシック戦線。

希望以外に何もなかった。

恐れることなし、サンデー血統。


弥生賞、サンデー母父にもつアドマイヤムーンの5着。

皐月賞、最後方から追い上げるも10着。2着から6着までサンデー系がしのぎを削るなか、抜けきったのは非サンデー系メイショウサムソンだった。

ダービー、無念、15着。2着から12着までもサンデー系が居並ぶなか、またもや撃破したのはメイショウサムソンだった。



2000mを超える距離の壁を悟ったスーパーホーネット。

攻撃ポイントを短縮。


富士S15着のあとカシオペアSを1年ぶりの勝利。

マイルチャンピオンシップに照準を合わせるも、9着。


上昇態勢に入りかけては、キリモミ状態。

非サンデーの旗頭はメイショウサムソンに奪われ、冠は遠のき、

どこへ出動すればよいかもわからず、むやみに時は流れた。



2007年、4歳。

それでも、ひた走るしかなかったスーパーホーネット。

大阪城S、都大路S、オープン特別は勝つが、阪急杯7着、マイラーズカップ15着、安田記念11着。


秋、突然の覚醒か? 

ポートアイランドS勝利に続き、スワンSでフサイチリシャールをハナ差差し切り、重賞初制覇。


マイルチャンピオンシップ。自信のG1参戦だ。

敵はG1、4勝馬。サンデー産駒、ダイワメジャー。


3番手を進むメジャーに8番手から照準を合わせた。

直線、早々と抜け出すダイワメジャー、追い上げるスーパーホーネット。

狂いはなかった、はずだった。


クビ差、


またしても届かなかった。2着。



2008年、5歳。

初戦、高松宮記念、休み明け、よく追い込んだが5着。

負けても、最速の上り33秒2。休み明け、納得だった。


心身ともに、充実していた。


君臨しているサンデー系に勝つ!

そんな、邪念は捨てた。


目の前の攻撃目標に、最大限の力を注ぐ。

高性能マシン・スーパーホーネットの、それが真実だ。


京王杯スプリングS、キストゥヘブンに0.3秒差勝利。重賞2勝目。



安田記念。相手は牝馬にしてダービー馬ウオッカ。

1番人気はスーパーホーネット。

3番手を行くウオッカ。10番手から、狙う。


だが、定まらない照準。ぶれて遠のき、はるか彼方。

8着惨敗。


どんな自信も、塵のように消え飛ぶ。

それが、競馬。


秋、毎日王冠、リベンジの時はきた。

1番人気ウオッカ。

逃げたウオッカ、5番手を進むスーパーホーネット。

安田記念以上に充実を見せるウオッカ。


だが、スーパーホーネットの合わせた照準に狂いはない。

直線、逃げ込みを図るウオッカ、上り33秒8。

勝る豪脚、脅威の33秒2の切れ味でウオッカをアタマ差、ねじ伏せた。


11月、マイルチャンピオンシップ。

悲願のG1、1番人気スーパーホーネット。

もはや、照準相手はいない。


切れ味鋭く追い込んで、勝つのみ。


ローレルゲレイロ、ファイングレインを撃ち落とし、カンパニーを置き去りにした。

ところが、内から同じように影のように上がって来ていた馬が、ゴール前、抜け出した。


ブルーメンブラッドだ!


気づいた時には、遅かった。

4分の3馬身差、2着。


香港へも行った。香港カップ5着。



2009年、6歳。

前哨戦は勝つ。マイラーズカップ1着。

本番は? 安田記念、ウオッカの7着。



20010年、7歳。

照準が翳(かす)む。切れがない。

スーパーホーネット、その翼に軋(きし)みの音。


なんの、まだまだ。


ダートも走った。フェブラリーS、15着。


前哨戦、マイラーズカップ、2番人気も9着。


安田記念。6番人気。

これが、最後かな?


よりによって、東京1600m。14着、11着、8着、7着。


エイシンホワイト、マイネルファルケがつくり出すハイペース。前半3ハロン、33秒6。

1番人気リーチザクラウン、2番人気トライアンフマーチが3番手、4番手。


15番手を行くスーパーホーネット。

自信などない。


軋む翼に、意地を乗せた。


直線、猛然と追い込んで見せた。

次々に撃ち落とす。


リーチも、トライアンフも、眼前にはいない。


開けた視界に、ゴール板が飛び込んでくる。


またしても、


内から伸びる一頭。


ぬぁぁぁぁああーっ、ショウワモダンだッ!


軋む翼が、折れた。


スーパーホーネット、半馬身差2着。


G1、4度目の2着だった。



秋、初めて天皇賞秋2000mに挑んだが、11着。

右前浅屈腱炎を発症、引退となった。



現在、アロースタッドで種牡馬として、第二の馬生を過ごしている。

シンジケートもなくプライベート種牡馬として、繁殖牝馬に恵まれることはないだろうが、可能性は残った。



大いなる可能性を秘めたサイアーライン。



いつか、



いつか、



スーパーホーネットの仔よ、



雄飛せよ!




父の夢へ、



Lock on!