「いままでみんなを引っ張っていただいて、ありがとうございました」

暗闇を突き進んで走るバスの中、前の席に陣取るゲンジイの横に座り礼を言う才女タチバナ。

「礼などいらんて。これも何かの縁じゃ。チトきつすぎる状況じゃがのう」

「はい」

「ん? 浮かぬ顔じゃのう。人間でないことを悩み、隠し続けて、図らずも告白するはめとなり、積年の胸のつっかえは取れたが、みんなのあっけらかんさに、やや拍子抜け。ってとこか?」

「半ば、そんな感じです」

「うん、正直でよろしい。それは、こやつらとあんた、シンジはバンパイヤ以前に、仲間じゃからなんだよ。互いに認め合った仲間。たとえ、その正体がなんであったって、やつらは根っこの部分でつながる仲間をむげにはしない。だから、強いんだよ。鵺とも対等に戦えるんじゃ。仲間であることを誇りに思え」

「そうですね」

二人は後部座席にいるサチ、ナミ、コウヘイ、キョウタ、シンジを見やった。

さすがに小さいコナンは疲れたか? すっかり寝入っている。



「イタイなぁ、コウヘイ。傷口触るんじゃないよ」

「あ、ごめん、ごめん。どうかな? ふさがったかな、思って」

「イテテッ、おまえ、触るなって言ってるだろ。ほんとはSか? てめぇ」

いつになく積極攻撃をナミに加えるコウヘイ。

ナミの逆襲はコウヘイの頬を両手鷲掴(わしづか)み。

そこへ、前の席のキョウタ参戦。無防備のナミの胸めがけて。

「そしたら、ここ気持ちよくさせて痛み和らげてやるゼ」

「バ、バカ、てめぇ、ブチ殺す!」

ナミ、慌てて胸に手をやり防御。今度は、後ろからまた、コウヘイが背中の傷口突く。

いつものように笑顔で見守るサチ、シンジ。



おもむろに前に向き直って、つぶやくゲンジイ。

「ただの、バカどもかもしれん」

静かに才女はうなづいた。



「うあああああー」

突然の部長トキタ運転手の声。

暗闇のなかに、さらに黒々とした大きなものが出現した。


バスを止め、降りた。

見上げた黒々としたものは、巨木がぎっしりと生えた森だった。


「うーん、これかぁ、鵺の棲みかじゃ。正念場じゃぞう。みんな」

「でっけぇ。要塞だね、こりゃ」

「行くか! 行くしかない」


「あれェ、スーパーサイヤ人にならないよ」

変身しようとしたコナン。変身できない。

「まだ、寝ぼけてるからだよ。気を入れて、ホラ、ん? ほんとだ、なんねぇ」

「どうやら、バリアーが出ているようだな。マズイな。でも、仕方がない。生身勝負でいくか」

「きついゼ。ナミ、オレから離れるな」

「バカか、おまえなんかに守られるか」

と言いながら、キョウタに寄り添うナミ。



入口らしき所から入った途端。

轟音とともに地面が割れた。

「うわああーっ」

「きゃぁぁぁーっ」

凄まじい揺れ、2つ、3つ、4つ、割れていく地面がポッカリ口を開けた。

次々に落ちていく探検隊。

踏ん張るに踏ん張れない。


やがて、地の割れ目が全員を呑みこんでしまった。


(つづく)