鵺の攻撃はなんとか防いだ。

ナミは傷ついた。

サチは覚醒した。

鵺が創り出したバーチャルな世界に取り残された僕たち。

鵺をやっつけない限り、この世界から抜け出せない。

やるしかない。

バスに乗り込み、しばし、休む。

思えば、朝、バスに乗り込んでから、どれぐらい経ったんだろう。

長い気もするし、短い気もする。



「おまえ、こんな時にまた、よく書けるなぁ。日記付けてる場合じゃないだろ」

ナミがコウヘイにツッコむ。

「日記じゃないよ」

「いっしょじゃんかよ。それより、おまえ、見たろ」

「何を?」

「何を? じゃないよ。サチの裸。それと、手当てしてもらってるわたしの」

「いや、見てないよ」

「うそつけぇ。他のやつ、ぜってい、見てんだかよ。おまえも、見たろ」

「ボク、見たよ」

「コナン、ガキはいいの」

「わしも見た。でも、これは仕方がない。男じゃて。サチの裸は神々しくて、うん、全然いやらしさはなかった。のう、キョウタ」

「なんでオレだよ。いや、でも、ホント、きれいだったよ。ナミのは角度的にも見えなかった。ん、残念」

「あのぅ、その話より、私たちのこと、話していいですか」

才女タチバナが申し訳なさそうに切り出した。

《やっぱ、おまえ見たろ》
《見てないよ、目、つぶったもん》

「おお、バンパイヤのことな」

《なんで、目、つぶったんだよ》
《見ちゃいけないと思ったから》
《やっぱ、見てんじゃん》

「うるさいぞ、そこ。それで」

首をすくめるナミ。助かった表情のコウヘイ。

「そうです。バンパイヤの血は10%も入ってないけど、ドラキュラの直系なんです。ほとんど普通の人と変わらないんですけど、ただ、無性に血が欲しくなる時があるんです」

「それで、屋上の男か。にしても、あんな血を流されたら事件になるぜ」

「いや、あれは…、失敗です」

「オレから話すわ。普通は相手にも気づかれへんように、他の事でごまかすんや。いわゆるセックス。相手の絶頂感にのって、ほんのちょっとだけ頂くから、普通は気づかへん。あの時は、屋上やし、そんなことでけへんから、多分、相手が気づいて暴れたんやと思う」

「そうかぁ、才女がよく寝乱れるって噂は、それだったんか。本当だったんだ」

「ばぁーか、おまえも血を吸われたいって思ってんだろ、キョウタ。おまえなんか、才女がお断りだよ」

「仲間は、ちょっとね」

「あ、真面目に答えなくていいすよ。て、ことはシンジもか」

「ああ、そやけど、オレの場合は血を欲しくなる欲求が少ないから、そうでもない」

「ほうー、女のが激しい」

「変な言い方すんな、おまえ、また、そっちの方考えてるだろ」

「いやいや、血を吸われた方はどうなるんだ」

「それは何の影響もない。ただ、血を取られるだけ」

「じゃあ、いいじゃん。キョウタの血、たっぷり取ってやれ。コウヘイは貧血起こしそうだけど」(笑)

「いや、男が男の血は」

「あ、そうか。じゃ、さぁ、お互いの血を吸い合えば? いやいや、そういうわけにはいかんか、アハッ」

「本当にごめんなさい。いままで隠してて」

「何言ってるの。人間のなかにも、バケモノみたいのがいるし、気にすることないよ、な、ナミ」

「なんだよ、そのバケモノって、わたしかよ。おまえだろ、変態バケモノ」

「僕もそう思う。いや、キョウタが変態バケモノってんじゃなく」

「わかってるよ。気にすることないってことだろ?」

「うん、そう」

「私も。みんな仲間だから。うまく言えないけど、姿、形が違うのと同じようなものだと思う。仲間であることに変わりはないと、そう思う」

「うーん、サチの言うことがすべてじゃな。摩訶不思議探検隊、そういう仲間ということじゃ。ワハッハッハ」


とにもかくにも、そういうことで探検隊は突き進む。


しばしの休憩を終え。


真っ暗闇と化したバーチャルな世界。


部長トキタの運転するバスは動き出した。


(つづく)