アメリカ・ケンタッキー州生まれの明るい栗毛馬。

左前脚以外は白いソックスを履き、

履き忘れたソックスの代わりに、額にくっきりと白い星をもつ。

それがアグネスデジタルだった。

父クラフテイプロスペクター、母chancey squaw。母の父チーフスクラウン。

生後2週間の時、栗東の白井寿昭調教師によって見いだされ、日本にやってきた。



1999年、9月12日。新馬戦ダート1400mに出走。2着と敗れるも、続く2戦目ダート1200mで勝利。

もみじS芝1800mでは8着と惨敗。ダートで2着、1着。


地方交流重賞、全日本3歳(現表記2歳)優駿、ダート1600mに出走した。

同じ中央所属のツルミカイウン、アドマイヤタッチを下し、重賞初制覇。


ダート馬として、早くも覚醒を見せ始めた。


白井師の想いは違っていた。

ダート馬じゃない、芝でもきっと走る。


明るい栗毛のなかに秘められた真実。限りない可能性をもつ馬、そう信じていた。


2000年。

ダート・ヒヤシンスS3着のあと、芝3戦。

クリスタルカップ、3着。ニュージーランド4歳S、3着。NHKマイルCはイーグルカフェの7着。


弱くもないが、強くもない。

アグネスデジタルのイメージは固まりつつあった。


ダートに進路を取り、名古屋優駿制覇。ジャパンダートダービー、1番人気で14着惨敗。ユニコーンS制覇、武蔵野S2着。

ダートの強豪としての地位を築いたアグネスデジタル。


ジャパンカップダートでG1獲り、と思われたが出走してきたのはマイルチャンピオンシップ、芝1600mだった。

芝のG1狙い。仰天の出走に13番人気も当然といえば、当然。


ヤマカツスズラン、ダイワカーリアンがつくり出した3ハロン34秒0というハイペースに、15番手という後方。まったく付いて行けないそぶりのアグネスデジタル。

ブラックホーク、シンボリインディ、エイシンプレストン、キングヘイロー、マイネルマックス、ダイタクヤマトという短距離のG1馬たちもペースに惑わされたか、直線、伸びない。


抜け出してきたのは無冠の大器、1番人気のダイタクリーヴァ。

念願のG1制覇! と思われた時、

大外からすっ飛んできて、居並ぶG1馬たちをなぎ倒し、

ダイタクリーヴァの悲願さえも打ち砕いたのが、アグネスデジタルだった。


1分32秒6、レコードタイムで差し切ったアグネスデジタル。

G1初制覇を芝で飾った。



2001年。4歳(この年より現表記となる)。

芝3走。京都金杯3着、京王杯スプリングC9着、安田記念11着。


やはり、弱くもないが、強くもないアグネスデジタル。


怒涛の5連勝を果たした。

日本テレビ盃(G3)ダート。

マイルチャンピオンS南部杯(G1)ダート。トーホウエンペラー、ノボトゥルー、ウイングアローを破り、ダートG1初制覇。

天皇賞秋(G1)芝。古馬G1で圧倒的な強さを誇っていたテイエムオペラオー、メイショウドトウの2頭を、直線、鮮やかに差し切った。

香港カップ(海外G1)芝。海外の強豪相手に、先行策から押し切った。

フェブラリーS(G1)ダート。トーシンブリザード、ノボトゥルー、芝から参戦のトゥザビクトリー
を相手に好位から、難なく差し切った。


ダートG1、2勝。芝G1、2勝(一つは海外)。

天皇賞秋では同じ外国産馬クロフネが出走を表明していたが、アグネスデジタルの突然の出走(当時、外国馬は2頭のみ出走可能、クロフネは賞金3番目だった。もう1頭はメイショウドトウ)で物議をかもした。

すべて、勝つことによってアグネスデジタルは消し去った。


世代最強の強敵を相手に、芝・ダートともに席巻して見せたアグネスデジタル。

とてつもない偉業である、はず。


続く海外遠征2戦。ドバイワールドC6着。クイーンエリザベスC、エイシンプレストンの2着。

日本に戻り、かきつばた記念(ダートG3)4着。


弱くはないが、強くもない。

なぜか、そのイメージは拭えなかった。



2003年、6月。安田記念、芝1600m。

G1、5勝馬、アグネスデジタル。

ローエングリン、テレグノシス、ダンツフレームに続いて4番人気だった。


艶やかな栗毛の馬体。

その輝きに似て、数ある黄金の実績。

世代を代表するスターホースになりきれない。


三白、白いソックスを履き忘れた左前脚。

何かが足りないというのか?



ミデオンビットが逃げ、ローエングリンは2番手に控えた。

アドマイヤマックス、ビリーヴが好位につける。

その直後でダンツフレームも虎視眈々。


アグネスデジタルは中団につけた。並んで行くのが切れ者、テレグノシス。

淀みないペースは隊列を崩せない。


攻防は、直線だ!


逃げたミデオンビットの脚がなくなり、ローエングリンが先頭を奪う。

衰えない。粘り込みを見せる。


アドマイヤマックスが迫る!

その外、黄金の末脚は爆発した!

アグネスデジタルだッ!


強い、強い、アグネスデジタルを、6度目、見せた。


アドマイヤマックスをクビ差、抜き去った。


1分32秒1、レコードタイム。



その後、宝塚記念13着、日本テレビ盃(ダート・G3)2着、マイルチャンピオンS5着、天皇賞秋17着、有馬記念9着。


アグネスデジタルは引退した。

全32戦12勝。G1・6勝(芝4勝、ダート2勝)。芝レースで1番人気は最後までなかった。

G1・15戦、6勝。掲示板に載らなかったレース8回。



とてつもなく強く、弱い馬だった。



アグネスデジタル、


最もアナログな馬。



たっぷりすぎるほどの個性をもった、


最強、最弱な名馬といえよう。