昭和45年 秋から冬へ

朝5時、さァ、寝るか。

7時起床、おふくろが容赦なく起こす。睡眠2時間。2か月半。

よくやったものだ。我ながら感心。


もちろん、受験勉強。

夜8時からたっぷり9時間。びっちり勉強。2か月半。


支えたものは、おふくろの涙、命と闘うユキ、彼女の存在。


今年の2月、オレが受験にすべて落ちた日の夜だった。姉からの電話に出たおふくろ。

「あかんかったわ。可哀そうにな。アハハハハ」

短い報告、力なく笑うおふくろ。何気に見てしまったオレ。ひと筋、涙が皺いっぱいの頬を伝った。


気丈なおふくろ。

物心ついてから涙など見たことがない。


そのおふくろが涙。正直、落ちた本人のオレはなんらショックもなかった。いいや、専門学校でも行こうか、その程度だった。オレ以上に悔しく、悲しかったのか? バカだよ、オレ。ごめんよ、来年はあなたのために、何があっても合格して見せる。オレは誓った。


オレ達の最愛の親友ユキは白血病という不治の病と闘っている。勝算はない。それでも、オレ達と約束した「奇跡を信じる」って。いつ見舞いに行っても笑顔を見せてくれる。弱音を吐かない。進行を遅らせるしかない化学治療、その副作用の辛さ。決して見せない。健康体のオレ達が、生きることに弱音を吐いちゃ、絶対、いけない。


告白ひとつできない情けねぇ、オレに、「なってもいいよ、彼女に」て言ってくれた電車の君。

あれから、2か月半。

毎朝、乗って来てくれる8時17分の電車。10数分間の電車のドア前のデート。以前と同じ。何も変わったわけではないが、より満たされているオレ。

それは、

なんなら大声出してもいい、

彼女はオレの彼女ダァー!



もうひとつ、変わったこと。



オレと彼女、電車のドア前のデート・スポット。二人の距離、20㎝。

大きな揺れがあると、触れ合う距離。



いろんなものに支えられている、オレの気力。

気力はあるが、体力が限界かな?

ここ2日、12時過ぎると、自然に瞼が閉じる。

5分起きてて、3,40分眠る、の繰り返し。


今日は寝よう。

もうすぐ12月。やる事はやった。

体力の限界までやった充実感、が強い。


さぁ、元気を出して駅へ。


彼女の笑顔が、見たい。





ユキ、元気に翳りが……。隠しているが辛そう。涙をこらえて。