さぁ、いよいよ、最終レース、スタートだ!


生活賭けて、競馬知らない僕だけど、渾身の予想。

1200mダート。朝から見ていたけど、距離の短いレースは前の方で走っている馬が、そのまま1着、2着が多い。新聞に「逃げ」と表示されているのが2番、4番。2番は1番人気だし、4番は5番人気だけど騎手がさっきも勝ったし、その前が2着。好調そう。パドックとやらでも、ノッシッ、ノッシ、と元気そう。

コレダ!と思った2頭。

最初から先頭、2番手。

先頭は4番。速い、速い。


4コーナー、4番に2番が並びかけて、あとは2馬身ほどの差。

あれあれ、このまま行っちゃうんじゃない!

素人の僕は、すでに小躍り。


残り200m、そのまま。やったんじゃない!


残り100m、後ろから、猛然と2頭の馬が襲いかかる。ウッソー! 来るなアー!


ゴール!


4頭が入り乱れて、ワケのわかんない僕。


凄まじい大歓声。オーロラビジョンがスロー再生。ゴール前のスローで、オオーッ! さらに上がる歓声。スローに力なく座り込む、僕。

外から来た10番、9番が、わずかに前に出ていた。続いて、4番、2番。んっ?


「やったあー!ヤッタ、ヤッタアー!」

狂喜する悪魔。んんっ? あっ、そうだ! 悪魔が言ってた10.9.4の順。

「おまえ、そんなに喜んでるけど、買うてへんで」

「うち、さっき100円拾てん!トイレの帰りに!ほんで、買うてん!見てみ!10.9.4!」

『おおーっ!』

僕と天使は同時に叫んだ。そのあとは、3人狂喜乱舞。




「いやぁー、凄いな!」

「いやぁー、あるもんやな、ゴロ合わせで当たること」

「いやぁー、いやぁー、て、うちに感謝はないの! 全部、うちのお陰やろ!」

僕の懐には3連単、なんと、212万8300円なり。


まさに、夢の夢のような、お金。




うかれ、はしゃぎ帰る僕たち。立ち止った天使。細い線のような目が鋭くなっている。目線の先に一人の男。50歳過ぎだろうか、僕たちとは対称的にがっくりうなだれる姿。

「どうしたんでっか? 死相が見えてまんで」

近寄り、いきなり凄い言葉でたずねる天使。

「いや、あの、従業員に渡す給料、全額賭けてしもたんですわ。2番の単勝に」

天使の言葉に面喰ってか、見も知らぬ我々に、また、正直に答える男。そして、うなだれる。

「なるほどなぁ」

天使が僕の方を見やって、申し訳なさそうに笑った。ええっ、どういう意味?

悪魔が僕の背中を押して、男の前に突き出した。

オイオイ、何をする……、ん、消えてる悪魔。横を見ると、天使も消えてる。


ええっ、ええええっ!


目の前の僕に、顔を上げる男。マジで見つめ合う距離、僕と男。

「いや、いやぁー、それで、いくらなんですか?」

「はぁ?」

「いや、いくらあれば、あなたは助かるんですか?」

「ああ、200万円です」

きっちりじゃん、きっちりあるじゃん、僕。なぜー、ナンデ、ナンデ、400万とか、500万とか言ってよぅ。




「ええことしたな、あんさん」

「そやそや、人ひとり、命助けてんで」

沈黙の僕。200万円、夢の夢だった。


「差し引き12万ちょい。10万元手やから、勝ったやん。ええことして、気分もええし、ほな飲みに行こか?」

「そうそう、もともと馬券買うたんは、うちやしな」

うちやしな、てどういう意味だよ。私だからね、て言えよ。ああ、振り回され通しの僕。疲れるわ、この二人。




とにもかくにも、天使ポイント1で、天使と悪魔、プラマイ0。


(つづく)