「疑惑の銃弾」と言えば、私が大学3年ぐらいの時の事件ですから、うん十年前の話。
その三浦さんが、今、サイパン警察当局に拘束されています。
何故、こんなことが起きたのかと言えば、日本では、最高裁で無罪が確定していますが、米国でも捜査が継続していて、ロス市警が殺人容疑で逮捕したためです。刑法学上、何が問題なのでしょう?それは、
double-jeopardy(ダブル ジェパァディ)
:「二重の危険」
という概念です。
すでに処罰された同一の犯罪について再度刑事責任を問うこと」です。
歴史的にはイギリスのcommon -law(コモンロー)上の原理として、
prohibition against double-jeopardy(一事不再理)として禁止されています。
さて、下の英文は、Daily Yomiuriからの引用です。
辞典中身

California double-jeopardy ruling helps Miura's case
~2008,4,13~

California Penal code used to state that the principle of prohibiting double jeopardy also applied to court rulings made in foreigns.


参考訳:
改正前のカリフォルニア州刑法において、一事不再理の原理は外国で下された判決に対しても適用されると規定されていた。


However, because there are many cases of people committing crimes in the United States,
fleeing to Mexico, and then going back into the United States,
the California Legislature revised the law in 2004 to allow prosecutors in the state to try people with crimes even if they have already been convicted abroad.


参考訳:
しかし、米国で犯罪を犯した者がメキシコに逃亡し、その後、再度、米国に戻ってくるという事例が多発しているため、カリフォルニア州議会は州刑法を改正し、州内で犯罪を犯した者が、その犯罪で外国において有罪判決を受けたとしても、州検事は同じ容疑で、その犯人を起訴できることとなった。


ところで、合衆国憲法修正第5条は、一事不再理を規定していますが、州刑法を改正すると違憲になるのではないのでしょうか?
実際に改正したということは州検察当局は、「合衆国憲法における一事不再理は、国内法における刑事罰(又は無罪確定)を視野に入れており、外国における刑事罰(又は無罪確定)は対象としていない」という見解に立っているのでしょう。
合衆国憲法

Because the ruling in Mexico on Martinez's case came before the revision to the state law, the court ruled that the indictment was invalid because ''it infringes the principle that laws must not be applied retroactively''

参考訳:
マーティナッツ事件に対するメキシコの裁判所の判決は、カリフォルニア州刑法が改正される前になされた判決であるため、(サンディエゴ高等)裁判所は「法は遡及して適用してはならない、という原理に違反する」としてその起訴の無効を宣言した。


「カリフォルニア州刑法の改正」とは、「外国で犯罪を犯して確定判決を受けた者でも、州内で更に同一犯罪で起訴できる」ということです。
その改正がなされる前に発生した、メキシコ国内の裁判所で判決を受けて確定したカルフォルニア州の管轄事件を、法改正後、起訴すること「法は遡及して適用できない」という原理に違反するとしているのです。
州高等裁判所は、prohibition against double-jeopardy(一事不再理)の問題とせずに、prohibition of ex post facto law :遡及処罰の禁止の問題としたのです。
記事中には、「処罰」に該当する語はありませんが、法的安定の立場からは好ましくありませんが、遡及適用は必ずしも禁止されませんので、「遡及処罰禁止原理」に言及していることは間違いありません。
そもそも、このような立法(国外事案の一事不再理の適用を除外する)が既成事実化していることから、違憲の意識が司法当局にないのかもしれません。
英字新聞のLead(見出し)は、一事不再理の事例として「起訴できない」ことになる可能性を示唆していますが。(double-jeopardy ruling helps...)
辞典
ちなみに、日本の場合は、日本国憲法第39条後段に「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」と規定されており、実例でも、国外(フランス)で判決が確定し、刑の執行を受けた者(責任能力が認められず、精神病院に措置入院ですが)が帰国した時、その者の起訴は行われませんでした。
私としては、一事不再理、遡及処罰禁止などは罪刑法定主義原理、基本的人権尊重原理ですから、国内外の適用問題ではなく普遍的原理だと思うのですが・・・。学説もそのように解されています。
「目的が正義なら、手段も正当化される」というのは、ブッシュ政権下の特徴でしょうか?
合衆国は、「due process of law」(法定(適正)手続の保障)の母国なのですが・・・・。