サンデー毎日のロッキー青木伝も9回目――。

 

 ロッキー青木は無類のカーマニアとして知られた。それはベニハナが成功するずっと前からだが、その実、自慢の愛車もまた、レストラン事業の売り込み材料でしかなかった。テレビ局や新聞社へ出かけるとき、ロッキーは決まってロールスロイスに乗り、わざわざ会社の前に車を停(と)めた。

 中根和夫は、ニューヨーク五番街のベニハナ1号店の準備を始めた頃にロッキーと出会っている。初対面の場所は、ニューヨーク市マンハッタン区のミッドタウンに聳(そび)え立つホテル「ウォルドルフ・アストリア」だ。ニューヨーク州知事だったネルソン・ロックフェラーとソビエト連邦書記長のニキータ・フルシチョフの会談の場となったこのホテルは、今も世界中のセレブが集う。ヒルトンホテルグループの中でも、最高級に格付けられている。

 中根は実父の青木湯之助の薦めにより、このホテルでロッキーと落ち合うことになった。場所を指定したのはむろんロッキー本人であり、これもまたロッキー一流のこけおどしといえる。中根が初対面のロッキーの印象を語る。

「ひと言でいえば、精悍(せいかん)でした。ウォルドルフ・アストリアの車寄せに自ら運転するロールスロイスを横付けしてね。レスリングで鍛えた若いスポーツマンが車から降りてきた。その仕草が、いかにも慣れていてスマート、さまになっていました。車のキーをホテルマンに渡してロビーに入ってきました」(以下略)