ロバート・クラム「ZAP COMIX」
「フリッツ・ザ・キャット」のR.クラムがストリートで手売りしたマンガ
昔、神田の洋書専門の古書店の店頭でなんとロバート・クラムの「ZAP COMIC」を見つけ、とびあがるほど驚いたことがある。
といっても、おそらくほとんどの人が何を言ってるのかわからないだろう。
そもそもクラムを知っている人もごく少数だと思う。
ロバート・クラムはアメリカのマンガ家。音楽好きの人なら、ジャニス・ジョプリンの「チープスリル」のジャケットのイラストを描いたといえば見たことのある人もいる筈だ。
マンガでの代表作は「フリッツ・ザ・キャット」という猫を主人公にしたマンガ。これはアニメ化もされて、アニメ作品もカルトな人気を得ている。
「フリッツ・ザ・キャット」は70年頃描かれた作品だが、ドラッグや反戦、学生運動といった当時のアメリカ社会の若者の現実を擬人化した動物たちを使って描きだし、話題になった。
「PLAYBOY」誌がその人気に目をつけ、破格のギャラでクラムに仕事を依頼したが、クラムはあっさりそれを断った。「PLAYBOY」誌の編集者は「ウチの仕事を断るなんて、いつかホームレスになるぞ」と捨てゼリフを残して帰ったと言うエピソードがある。
大体クラムというマンガ家はアングラ・コミック誌などを活躍の舞台にしていて、プレイボーイ誌の例を見てもわかるように、大金を積まれても気に入らない商業誌には見向きもしなかったようだ。日本でいえば「ガロ系」のマンガ家なのだ。
「ZAP COMIC」は、クラムが有名になる前、自分で自費出版した薄っぺらな雑誌で、全ページを一人で描き、ストリートでクラム自ら手売りしたものだ。一般の流通ルートにすら載らなかった雑誌なのだ。アメリカの古本屋だっておそらく見つからないはずだ。「まんだらけ」だって絶対に売っていない。それが日本の古本屋の店頭に紛れ込んでいるとは…。さすがは神田古書店街、恐るべし。
ぼくは中学生の頃初めてクラムの絵を見て以来、クラムの作品集はもちろんのこと、クラムの作品が掲載されている雑誌(ほとんどアメリカのアングラ雑誌だが)を見つけると、必ず買ってしまうほどのクラム好きなのだ。
店頭に山と積まれたパルプマガジンをチェックしていくと、なんと3冊見つかった! さらにクラムの作品が掲載されているアンダーグラウンドのパルプ雑誌も6、7冊まざっていた。ほかにバットマンが掲載されている「DC COMIC」の古いものもあったが、クラムの雑誌に興奮しているぼくにはそちらはどうでもよかった。
ぼくはこれでも多少は昔のマンガや稀こう本などコレクションしているが、例えば竹内寛行の墓場鬼太郎全巻とか、水木しげるの貸本漫画十数巻とか、原画とか、前衛画家でマンガ家のタイガー立石の自費出版本とかあるが、その中でもいちばん大切にしているのが、このペラペラのZAP COMIX数冊なのである。去年の三月の大震災の時も崩れ落ちた大量の本の中にまっ先に探したのがこの「ZAP COMIX」だった。
ま~、ほとんどの人にはどうでもいい話だが。
ロバート・クラム作品集(日本語版)
ロバート・クラムBEST―Robert Crumb’s troubles with women