60年代新宿のセミ・ドキュメンタリー映画 ~大島渚「新宿泥棒日記」 | 銀のマント


60年代新宿のセミ・ドキュメンタリー映画 ~大島渚「新宿泥棒日記」









 冒頭、いきなり唐十郎と状況劇場の面々による新宿駅前でのパフォーマンスが映し出される。これだけでもう状況劇場ファンとしては感激である。何しろ60年代の状況劇場の映像などほかでは見ることができないからだ。
 1968年に制作されたこの映画は、ほかの大島渚の映画とは趣を異にしていて、セミ・ドキュメンタリータッチで撮られている。役名がついているのは主人公の男女(横尾忠則、横山リエ)だけで、あとの出演者はすべて実名で登場する。
 新宿紀伊国屋書店で若い男女が出会い、そのカップルの一日を追った映画だ。とはいえ、カップルに格別ドラマチックなことが起こるわけでもなく、性科学者のもとを訪れてセックスと深層心理について聞いたり、花園神社で公演中の状況劇場の芝居に飛び入り出演したりする。その合間に、大島渚の映画では常連の佐藤慶や戸浦六洸といった俳優達が酒場で性談に盛り上がるカットが挿入されたり、新宿騒乱事件のカットが出てきたりする。
 60年代末の新宿をめぐるサブカルチャー、文化人、事件を配したセミ・ドキュメンタリー映画といったところである。
 同じ60年代から70年代にかけて作られた大島渚の映画、例えば「絞首刑」にしろ「少年」にしろ「儀式」にしろ、緊密なシナリオで密度の濃い画面、ちりばめられたメタファーといった特徴はここにはない。
 あるのは60年代末期の新宿という、カオスと熱気に満ち満ちた街だ。
 大島渚は、この新宿という、当時の日本でいちばん熱い街、状況的という言葉がぴったりの「新宿」のドキュメンタリーを撮ろうとしたのだろう。そんな映画になっている。
 タイトルの「新宿泥棒日記」というのは、男女が出会うキッカケになる、本の万引きに由来している。新宿紀伊国屋書店で、主人公の横尾忠則が数冊の本を万引きするのだが、このシーンは現場の店員には撮影をしらせずに本当に万引きを行い、それを隠し撮りしたのだという(もちろん上層部の人間の了解は得ていた)。
 また当時日本に紹介され話題になっていたフランスの作家ジャン・ジュネの「泥棒日記」にもかけてあるらしい。






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