■タイガー立石のふしぎでおかしな世界
タイガー立石は、シュールなタッチの画家であり、同時にギャグマンガ家であり、海外で活躍したデザイナーでもあるという、日本では珍しいタイプのアーチストだった。
掲載したのは初期の絵画作品で、どことなくダリの影響を感じさせるが、ナンセンスの味わいもある。何しろ、頭に電球をつけた虎が空を飛び、火を吐き、コーラまで飲んでいるのだ。不思議な異世界である。
タイガー立石は、この絵を描いた1960年代後半、マンガ家としても活躍していたらしい。「天才バカボン」の赤塚不二夫のブレーンとして、赤塚ギャグを作ったことも知られている。レレレのおじさんやニャロメなんかもタイガー立石のアイデアが入っていたそうだ。
その後、イタリアへ渡って、オリベティのデザイナーとして活躍。十年近い海外での生活ののち、帰国して、絵本や立体造形や絵画など精力的に制作した。
帰国後の作品では、昭和史を彩った人物を何十人とパノラマのように描いたシリーズがある。もともとマンガでも、「図解マンガ」ともいうべき、ふしぎなジャンルを作った人だ。コマによってストーリーを展開するのではなく、1枚の絵で図解のようにある情景なり世界なりを描いてしまうという手法だ。いってみれば、日本のマンガの原点と言われる「鳥獣戯画」のような世界だ。
そのアート世界は初期の頃からいっかんして、マンガ的なセンスが感じられて楽しい。笑いによって解放されていて、芸術の殻に閉じこもることがない。だれでもそのふしぎな世界に驚かされても、難解さに悩むことはないのだ。