姓は菊咲(きくざき)、名は一華(いちげ)
ひと呼んで“野の花おせん”とは私のこと。
あたしゃ江戸の生まれで
曲がったことが大嫌い。
根っからの江戸っ子よ。
だから芽を出してからまっすぐに伸びるのよ
浮気も大ッ嫌いだから
花は一輪だけって決めてるの。
わたし、菊に似ていていい女でしょ。
自分で言うのもなんだけど
江戸中見渡しても、あたしみたいにいい女はいないよ!
だからこの名前になったのよ。
今も昔と変わらずに
春になったら花をつけるの。
咲いた後はこの世に未練は残したくない。
だから、来年の春まで私は姿をこの世から消すの。
つまりスプリングエフェメラルの仲間なのよ。
今年も精一杯咲かせたから
みんな見てくれる?
忘れていた。
わたしゃ菊に似た花で、一輪しか花をつけないから
菊咲一華(きくざきいちげ)と言うんだ。
覚えておいてよ。