以前、一度書きましたがCD,DVDのない時代は、師匠にお稽古を付けていただいても、通常は一字一句正確に覚えるということは難しいので、「覚える」と言っても微妙に違ってしまうということがあったようです。
ですから、同じ噺でも、お稽古を付けてもらった一人一人が少しずつ違った噺を覚えることになり、それが演者による藝の個性になったそうです。
心理学的な裏付けがあるかどうかは専門家にお聞きするしかありませんが、ごく普通に考えると、同じ噺でも、人により、面白さを強く感じる所は違うと思います。
つまり、お気に入りの箇所が人によって違うということです。
高座に上がる時に、自分のお気に入りの箇所を強調して演じたくなるのは自然な感情だと思います。
藝の伝承ということを考えなければならない玄人の場合は、最初にお稽古する時は、ある程度こういったいわゆる「個人的な好み」を別にして、可能な限り師匠のなさるとおりに稽古しなければならないのかもしれません。
素人の場合は、このような縛りに従わなければならない理由はないように入蔵には思えるのです。
玄人のように噺が出来るようになりたい方は、師匠のおやりになる通りに稽古なさったらいいと思います。
師匠が選んだ演目を、師匠のCD,DVDを完全コピーするように稽古なさったらいいと思うのです。
ある意味効率的かもしれません。
確実に落語上手になります。間違いないです。
入蔵がそういう稽古をするとしたら、自分が好きな名人、上手のCD,DVDで完全コピーを目指したいところです。
でも、入蔵のように自分が面白いと思うところを勝手に膨らませて、まず、自分が笑えるかどうかが一番大事だと思うような、不良生徒にはそれは無理なのです。
素人なのに自分が面白くないことをしてもつまらないからです。
まず、自分が楽しむ、そして、お客さんにも楽しんでもらう。
お客さんに楽しんでいただくために、落語家が長い年月をかけて工夫してきた技術、コツを素人として学ばせていただく」という感じが入蔵にはあっているようです。
「こういう上下(かみしも)にすると、お客さんに人物の位置関係、立場の違い等がわかりやすい」「こういう間のとり方をすると、お客さんにより面白く感じていただける」という具合です。
未だに、入蔵は上下のとり方がうまく出来ずに、「これだと、お客さんにはだれの発言かわかりづらいだろうな」「登場人物の位置関係がわかりづらいだろうな」と噺をしながら思うことがあります。正直に言うと毎回です。
そういうことを思うようになると、「ああ、この師匠はこういう、上下で、こういう間のとり方で、こう表現している。上手いなあ」と、玄人の師匠方のうまさがよくわかり、「今度はこういう所に気を付けて稽古しよう」という気持ちが自然に湧いてくるのです。
稽古を付けてくださる師匠の注意も素直に納得できるようになります。
自分の好き好きに関係なく、「与えられた課題の噺を完全コピーがうまく出来る様になることを目指す稽古」では、入蔵はきっと、今のように「出来ない自分に嫌気がさすこともなく、自分なりの稽古の課題を見つける事が出来る」ようにはなっていないと思います。
自分の好きな噺が出来るようにならないし、そもそもお稽古をつけていただいた噺しかできないことになります。
玄人ならば自分が覚えたい噺を、お願いできる師匠にお願いして稽古をつけていただけるのでしょうから、稽古を付けていただいて、完全コピーを目指すようなやり方で良いのだと思います。
素人、少なくとも入蔵にはそんなことは出来ません。
完全コピーを目指さなくともCD,DVDを用いて一人で稽古する時が来るかもしれません。
その時に、たぶん入蔵は、「どこが勘所」か」「どこに気を付けなければいけないか」が、ある程度わかるようになっていると思うのです。
そのうえで、さらに、師匠にお稽古を付けていただくことができれば、一つ質の高いお稽古が受けられるのではないかと思います。
間違えないでほしいのは上に述べたのは、あくまで入蔵の「感想」であって、入蔵の考えを単に述べてみただけだということです。
どんな修行でも、「型が大事」という考えと、「まず実践」という考え方があります。
どちらかが正しくて、どちらかが間違っているというわけではないと思います。
こういう葛藤は、単に落語に関してだけ起こることでは無いと考えます。
入蔵は、昨日、柴又で行われた落語会に出演しました。
満席立ち見の時間もあれば、十人程度の時もありました。
入蔵の出番のときは、30人位だったでしょうか。
お客の年齢層はかなりバラけており、70代80代と思しき方から、たぶん3歳と、5歳くらいかなと思われるご兄妹までいらっしゃいました。
入蔵は例の「饅頭こわい」を高座にかけたのですが、小さなお子さんにも随分笑っていただきました。
お年寄りにも(自分もいい年なのであまり使いたくない言葉です(-_-;))、それなりに楽しんでいただけたように思います。
「落語ってすごいな。入蔵程度が演じても、これだけの年齢差のある方々に喜んでいただける(お子さんはたぶん饅頭を食べる仕草が面白かっただけだと思いますが)んだ」と、あらためて思いました。
結局、どういう方法、目的で稽古をしても、お客さんに喜んでもらえると、演者はとてもうれしく、楽しい気分になるのです。
「観客として、楽しむのはもちろん結構なことですが、ちょっとやってみるのも楽しいと思います」って「結局そこかい!」です。
本当にすみません。
ではまた(^^)/